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想思華

空気が変わった そう感じた


陽が昇ると共に現れる
一面に深紅の絨毯を敷き詰めたかのような雑木林

川の水面をわたって流れてくる冷たい風

香りがあるはずもないのに
甘く錯覚させるほどの花の彩り

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ビルの谷間を歩く一瞬
あらわれた幻影

それは本来共にあるべきものが
同時には存在しない故の強さ

かの国ではこの花を<想思華>と呼ぶ
花は葉を想い 葉は花を憶う
命の限り
ここにはいない
寄り添うべき相手を思い続ける花

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甘く切なく

急に決まった打ち合せ
「祝日なのでオフィスで商談
   というわけにはいきませんね」
と、指定されたカフェに向かった

大人の街のカフェ
それでも席はなかったようで
ノータイでスーツ姿の彼は
大きなガラス張りのカウンターに
書類を広げて待っていた

ハイスツールのその席は
深くスリットの入った
タイトスカート姿のわたしを困惑させた

そのカフェを知らなかった訳ではない
いつものソファー席のつもりで
ざっくりとしたニットに
そのスカートを合わせたのに

「申し訳ありません
   ここしか席がなくて」
爽やかに笑う彼の隣に
   気をつけて腰を降ろす
でも、スカートの裾は容赦なく広がる
ガーターストッキングの太ももが
曝されないように
膝にバッグを置いて商談に入った

約1時間の商談
熱の入った会話の間に幾度も
彼の脚がわたくしの
    露になった脚に触れる
書類に伸ばした手が
    ニットの胸元を掠めた
あまりにさりげなく
   そのくせあまりに官能的な触れ方で
そして、ガラスの外はすっかり暮れていた

「宜しければお食事でもいかがですか?」
「いえ、そんな」
「こんな姿を見せつけられて
     このままでは帰れません」
彼の手がスマホを握るわたくしの手に
         かぶせられ力が籠る
「いつもと変わりませんでしょう」
「じゃあいつもこんなに素敵な
     ランジェリーだったんですね
           気付かなかった」
彼の目が正面のガラスに注がれる
そこには……
「いやっ」
スカートの裾を掻き寄せたくても
  手は彼に押さえ込まれたまま

「僕が嫌いですか?」
「お客様ですもの
   そんな風に考えたこともありません」
「だったら、考えて下さい
  僕はずっと魅力的な人だと思っていた」
「仕事に支障を来します」
「直ぐにとは言わない
  このプロジェクトが終わったら」
あまりに真剣な声
彼が独りに戻ってしばらく経つとは
            聞いていた

「無理強いはしない
   今夜は食事をしながら
        貴女が知りたい」
これ以上の拒否は
これからの仕事に影響してしまうかも知れない
「ご一緒いたしますわ
   お行儀良くしてくださるなら」
「わかった 行こうか」
スツールから降りた彼が
わたくしの腰に手を添える
このあまやかな指先の誘惑に
          打ち勝てるかしら
長く切ない夜がはじまる

十五夜の集い

抱き締められた肩からまぁるい腰まで
幾度も彼のすべすべな手が這ってゆく

最初はワンピースの上から
次第にファスナーを引き下げて
直接肌に触れてゆく

「あぁん だめ」
心細さに彼の腕にすがる
それなのに次の瞬間
手品のようにブラのホックは外されていた

「背中も感じるんだね」
「言わない で あぁぁ」 
恥じらいに染まるほほを
     彼のスーツの肩に押し当てる
もう、ハイヒールで立っているのがやっと

「どちらの部屋に行く?」
耳許で彼が囁く
顔を上げた視線の先には
全面ガラス張りのエレベーターに映る
彼の眼差しと
シルクのドレスをまとわりつかせた
ミルクのようなわたくしの背中
ウエストを横切る
ガーターベルトのレースさえ露に
「いゃっ」

「私の部屋に来るなら」
彼の右手が腰の丸みを撫でる
「このファスナーを上げてあげるよ」
彼の左手はわたくしの肩にある
「祥子が独りで部屋に戻ると言うのなら」
中指が衿ぐりをやわらかくたどってゆく
「この扉の前で剥き下ろしてしまおうか」
「やめて」

いまもいつ誰がこのエレベーターを
停めるとも限らない

だからと言って
偶然出逢った彼と
一夜を過ごす覚悟なんて出来はしない

「いいね、祥子」
「でも」
「ほら、もう着くよ」
「あっ あぁぁぁん」
「何倍も気持ちよくしてやる」
「だぁめぇぇ」 
「見も知らぬ男に見られたいのか?」
「いやっ」
「決まりだな」

ポン♪
扉が開く
でも、ファスナーは
   引き上げられはしなかった
扉の外の数人のフランス人男性の脇を
背中をヒップの割れ目まで露にしたままで
すれ違った
庇うように彼が
後ろについてくれてはいたけれど

ヒュー♪
エレベーターの中から扉が閉まる寸前に
溜め息とも口笛ともつかない声が漏れた

「私の部屋に来るかい?」
うつむくわたくしの頬に指を這わせる
「それとも、
  戻ってくる彼らに可愛がってもらうかい。
  ガーターストッキングとパンティだけの姿で」
目の前でエレベーターの表示が
      このフロアに向かってくる
「お願い」
「はっきり言いなさい」
「あなたのお部屋に」
彼の片頬に笑みが浮かぶ
「行こうか」
差し出された腕に手を絡ませた

深い海のような絨毯の上
堪えきれない悦楽の予感に
わたくしはふらつきながら歩いていた
真っ白な背中を公に曝したままで

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今夜だけ

側に居てくださる
ほんの少しでいいから

出逢ったときと同じに
友人のまま
寄り添え続けられる
    と思っていたの
あなたの家庭を壊すなんて
一度だって考えたことはないわ

一緒に居られる僅かな時間だけ
唇どころか指すら
    触れなくていいから
お話していたかった

『好きよ一緒に居て
あなたなしでは居られない』
わたくしはひとりぼっちなのだから
そう言って泣いてすがれば
    良かったのかしら


でも出来なかった

あなたの幸せは壊せなかった

今は淋しくてもいいの


でもお願い
命の終わりの時だけは
一目あなたに逢いたい
 
あなたがずっと好きでした
そう告げるだけのために

今のわたくしはその為だけに生きている
きっと誰も信じないかも知れないけど

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急に秋の気配が深まってきました
曼珠沙華の赤い花も
今年は少し早く見ることができるかもしれませんね

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