SnowWhite 44
わ・わん・・・わん・・わ・ふ・・・・わん・わん・わん・・・
あ・・・白雪が・ないて・る・・・
元旦の朝、窓の外からの白雪の声でわたくしはひとり目覚めたのです。
昨晩身に着けていた最後のランジェリー・・・ガーターベルトとストッキングは、ほかのものと一緒にベッドサイドテーブルに乗せられていました。
身体は清められていて・・・ベッドにひとり横たわるわたくしが身に纏っていたのは、春に高梨さんにプレゼントしていただいた桜色のナイティだけでした。
ベッドの上には揃いのガウンがふんわりと乗せられていたのです。
わ・わん・・・わん・・・
起きておいでよ 白雪の声はそう言っている様でした。
ガウンを羽織って、ラックの隣の腰高窓に引かれたレースのカーテンを開けたのです。
そこには、高梨さんの投げるボールと戯れる白雪がいました。
カラ・カラ・カラ・カラ・・・
わっ・ふ・・わん・・わん・わん・・・
ボールを咥えた白雪がいち早くわたくしに気付いたようです。
高梨さんの足元にボールを落とすと、窓の下に駆け寄って前脚を掛けてご挨拶をしてくれます。
通気性を考えて床を高く作ったこの家では、手を伸ばしてもやっと大きな白雪の頭に触れるのがやっとでした。
「おめでとう、白雪」
んくぅぅ・・ん・・わん・・・
ほんとうにこの子は人間の言葉がわかるようです。
「起こしてしまったかな。」
「いいえ。ごめんなさい、寝入ってしまって。」
白雪の落としたボールを拾って高梨さんが微笑みかけてくださいました。
「まだ早い時間なんだ。白雪が起こしに来たから遊んでただけだ。風呂にでも入ってからゆっくり朝食の支度をしてくれればいいよ。」
「ありがとうございます。」
元旦の日の出は午前7時より少し前くらい。いまの陽射しを考えれば、8時にはまだなっていないでしょう。
それに、わたくしの身体は昨晩の名残を残したままでした。胎内に注がれたままの高梨さんの精液も・・・ナイティのまま舐られた乳房も。
「ああ、それと着替えを風呂場に置いてある。良かったら着てくれるとうれしい。」
「はい?」
「祥子さんが気に入ればでいいからね。」
わふっ・・・
「わかったわ、白雪。お風呂をいただいて急いで朝食のご用意をしますね。」
「ああ、食事が終わったら初詣にでも行こう。」
「はい。」
さぁ 白雪!
わ・ん・・・わん・わん・・・・
高梨さんがボールを投げ、それを追う白雪の土を蹴る音が聞こえます。
わたくしは窓とカーテンを閉めて、ベッドを整えるとランジェリーを手に浴室へと向かったのです。
浴室の脱衣所に置いてあったのは、意外やお着物でした。
それも、着慣れた感じの紺地のウールのセットでした。帯は半幅の錆朱のもの。白い半襟の付いた白の長襦袢に、肌襦袢や腰紐・帯板・・・そして足袋まで一式揃ってました。
SnowWhite 43
ジィィ・・・パッ・カシャ「やぁっ・・・」
「それにこのフェロモン。白雪の嗅覚は人間の数千倍だというからな、リビングに居ても気付かれたかもしれないな。」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「あぁぁ・・ぁぁ・・・」
白雪に、いまのはしたない嬌態を気付かれてしまった・・・あまりの恥ずかしさに、わたくしはフラッシュから逃れる様に顔を伏せてしまおうとしたのです。
「だめだ!」
「あぅ・・ゆるし・・て・・・」
高梨さんの右腕がわたくしのロングヘアを掴み、背けようとした顔を引き立てるようにしたのです。
ただでさえみっしりと埋まった塊は質量を増して、柔らかな子宮へとめりこむほどに一層深く突き立てられたのです。
「最高だ、祥子!」
ジィィ・・・パッ・カシャ
ベッドサイドの白木のラックから、至近距離でシャッター音が響きます。
「やっ・・・」
「気付いているか、祥子。祥子のここは、カメラのシャッター音に反応して酷く締まる。」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「ぁ・・ぁあぁぁぁ・・・ちが・うぅぅぅ・・・」
ぐりぐりと、高梨さんが塊をわたくしの再奥で抉るのです。
「さっきから逝きたくなるのを我慢してるんだ。」
次に掴まれたのは、シーツを握りしめていたわたくしの両腕でした。
後ろから貫かれたままで、後ろ手に肘を取られ・・・絶頂のすぐ近くまで押し上げられたままの、危うい理性を曇らせた表情を、間近なカメラへと向けさせるのです。
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「思った通りだ。こんな官能・・・二度と撮れない。」
「あっ・・・」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「や・め・・・て・・・ぇ」
ナイティの左肩だけを・・・Gカップの乳房が露になるまで一気に剥き下ろされたのです。淫らに鴇色の先端を昂らせた身体から背けた横顔さえも、高梨さんのカメラは容赦なく捉えてゆきます。
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「あな・・た・ぁぁ・・」
フラッシュを浴びて・・・言葉にできないまま、わたくしは背後の高梨さんの肩に頭を預けるように達していました。熱い塊を押し込まれたままの蜜壷から、蕩け切った愛液が溢れ・・・太ももを伝ってゆきます。
「っく・・・締まる。」
突き飛ばされるように上体を倒されたのと、激しい抽送が始められたのはほとんど同時でした。
「ぁぁ・・・ぃくぅぅぅ・・・・」
「まだだ!」
シャッター音もフラッシュも途絶えた闇の中で、二人の身体の狭間からは淫らな水音だけが響くのです。
低く流れるエリック・サティと、遠くに聞こえる白雪の鳴き声と。
わたくしの喘ぎは、立て続けの責めにもう掠れていたのです。
「ゆずる・・・さん・・・ぁ・ぁあぁ・・ぁぁ」
「逝くぞ!祥子!」
「いくぅ・・ぅぅ・・・・い・っちゃ・ぅぅぅ・・・・・」
ぱん・ぱん・・・ぱん!
スパンキングのような激しい肉音を立てた抽送とともに、胎内に注がれた高梨さんの熱い精液を感じたのが、その夜のわたくしの最後の記憶でした。
SnowWhite 42
「あ・あぁぁっ・・・ゆずる・さ・ん・・ゃ・やぁ・・あっ・・・」白雪の存在を意識に上らせた途端に、高梨さんの抜き身の昂りがわたくしを貫いたのです。
み・し・・・ かりの張った反りの大きな塊は、幾度もの絶頂に蜜をまみれさせたままのわたくしの花びらの狭間へと・・・わたくしを一杯に広げながら押し入ってくるのです。
この方は、わたくしの口戯をいつも望んでくださいました。わたくしと1つになる前には必ず・・・。高梨さんがわたくしの口技をお好みになり、ご自分の悦びのために求めているのだとばかり思っていたのです。
それは大きな間違いでした。
「はぁ・・っ・・・あぁああ・・っ・・」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
わたくしの口腔で潤いを与えられていない彼の塊は、先端こそご自分の潤みで最も張り出した部分までをすっぽりと蜜壷に咥えさせはしました。が、その先はどれほどわたくしがはしたなく蜜を溢れさせていようとも、ご自分の熱で乾き切ったその筋張った幹を軋みを上げる事無しに受け入れることは出来なかったのです。
「ゆ・ずる・・さ・ぁぁぁああ・・・ん」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
一寸刻みに、抜き差しを繰り返して・・・わたくしの手がシーツを掴み、おぼろに乱れる黒髪がわたくしの背をのたうつ度に、高梨さんは冷静にシャッターを切ってゆかれるのです。
「あぁ・・・おね・がいぃぃ・・・」
ジィィ・・・パッ・カシャ
引く腰は、蜜にまみれた壁を張り出した傘でかき乱させ・・・押す腰は、子宮へつづく数の子のポイントを節くれ立ち反り返った峰で擦りたてるのです。
「はぁ・・ぁぁぁ・・・い・・っぱ・ぃぃ・・・」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
再奥まで高梨さんの塊を埋められたわたくしは、彼の力強い腰で押さえ込まれたようになった上体を、身体の奥から与えられる圧倒的な快感に・・・反射的に大きく撓らせてしまったのです。
「いいのか?祥子。」
お髭と同じにちくちくとする体毛を、わたくしの剥き出しの腰に押し付けたまま、高梨さんははじめてわたくしの顔にかかる黒髪を、片側へとかきよせてくださったのです。
肩で息をしていたわたくしには、すぐに答えるわけにはゆきませんでした。
「どうなんだ。」
ジィィ・・・パッ・カシャ
「ああっ・・・」
ず・ん・・・ 一気に引き一気に子宮まで突き上げる甘い衝撃に、わたくしの身体は言葉より先に、淫らな蜜を湧き出させました。
「ぃ・いぃ・・・で・すぅぅ・・」
「そうか。あんまり祥子が騒ぐから、白雪が起きてしまったみたいだ。」
わ・わふぅ・・・・きゅぅぅ・・・ん・・・わん・・
遠くに、白雪の切ない鳴き声が聞こえます。
「さわいで・・なんて・・・ぁはぁぁっ・・っくぁあ」
「あんまり淫らな喘ぎ声を立てるからだろう。」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「ん・・あっぁぁん・・・」
「まあ、Sの俺が祥子をノーマルに可愛がっただけで、こんなになったくらいだからな」
ず・ん・・・ 大きな塊は、わたくしの中に存在してひくつくだけで・・・淫楽の波を身体中に広げてゆくのです。その上で、ご自分のシャッターチャンスを図る様に・・・重いひと突きを、間隔をあけて繰り返すのです。
SnowWhite 41
Tバックを奪われた下半身は、桜色のナイティとガーターベルトの中に漆黒の茂みを一層際立たせていることでしょう。そのただなかに差し入れられた高梨さんの指は、蜜でしとどに濡れそぼっているに違いないのです。そして、シャッターの合間に摘まれ・揉み立てられる乳首は、きちんとナイティを身に着けているが故に唾液に透ける様が一層淫らにカメラの向こうの視線をそそっているような気がいたしました。
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「ぁぁあ・・・いぃぃ・・やぁ・・・」
裾を踏まれたナイティは、わたくしの動きを押さえ込んでおりました。
ひたすら続けられるのではなく、シャッターの切られるタイミングに合わせて間を置いて与えられる快感は、フラッシュにあからさまに晒される羞恥とともにわたくしを身悶えさせるに充分だったのです。
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「やっ・・・」
何度も頂きの途中まで押し上げたあとで、ふいに高梨さんはベッドの上から離れられたのです。
わたくしは、思わずベッドの上にうつぶせてしまいました。
身体の前面に散りばめられた・・・はしたない淫らな女の証をレンズから隠したかったのです。
ジィィ・・・パッ・カシャ
その動きの間も、カメラも閃光も一時も止みはいたしませんでした。
乱れた長い髪の隙間から、先ほど間接照明だとばかり思っていたものが・・・プロ仕様のフラッシュだとわかっただけでした。
「後ろ姿も綺麗だよ。祥子の背中に流れる黒のロングヘアは、まるで水墨画のようだよ。」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「それにその桜色に光る腰のまるみ・・・うつぶせて際立つ肩先から肩甲骨のライン・・・」
高梨さんの言葉に、自分が無防備に晒した姿を思い知らされたのです。
わたくしの豊かな乳房は、伏せた背中にも妖しい陰影を作り出していたようでした。
「だめだ!動くな。」
脚を引き寄せ、身体を縮こめようとするわたくしを、強い声が呪縛します。
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「祥子の腰のくぼみからヒップにかけてのラインは、目の毒だな。」
ぐいっ・・・
ベッドの上に乗った高梨さんの剥き出しの腕が、わたくしの腰だけを強引に引き上げたのです。
うつぶせていたわたくしは、ナイティに包まれたヒップだけを高く上げるはしたない姿勢を瞬く間に取らされてしまいました。
「動くんじゃない」
せめて上体を・・いえ腕だけでも引き寄せようとしたわたくしに、有無を言わせぬ彼の声が飛ぶのです。
高梨さんの手は、腰を覆っていたストレッチサテンの裾を一気に捲り上げたのです。
「いゃぁぁぁ・・・・」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
ワン・・ワン・ワン・・
シャッター音の向こうに、白雪の鳴き声が小さくくぐもって聞こえます。高梨さんとわたくしの、次第に激しくなる声に眠りを醒されてしまったからでしょうか・・・。
SnowWhite 40
仄かな明かりの中、高梨さんの肩の輪郭と微かな表情だけがわたくしに迫り・・・そのままベッドへと倒れ込んだのです。ちゅぅく・・・
「ん・・ぃやぁ・・」
高梨さんのたっぷりと唾液を乗せた唇が、ストレッチサテンごとわたくしのGカップの乳房の先端を舐ったのです。
唇に挟み込まれる圧迫感に続いて、じわ・り・・と暖かい液体がナイティに染み込むのがわかったのです。
「もっと声を出しても大丈夫だ。」
こりっ・・・
「あぁっ・・・」
既に幾度も上り詰めさせられたわたくしの身体は、高梨さんの甘噛みに、簡単にはしたない嬌声を漏らしてしまいます。
右と・・より感じやすい左を・・交互に・・・。唇を離された側は、暖められている室内でも濡れそぼった乳房の先端を一気に冷やし、その感触が一層わたくしを責めるのです。
「もっと、だ。」
「いやぁぁ・・・は・ぁぁぁ・・・」
ストレッチサテン越しであるだけ、高梨さんの舌の動きは大胆で乱暴でした。人間の舌とは全く違う生き物に・・・嬲られているかのように錯覚してしまうほどに・・・
わたくしの感じやすい昂りを唇で・舌で・歯で追い上げてゆくのです。
ただお髭のちくちくだけが・・・間違いなく高梨さんに愛されているのだと教えてくれるのです。
わたくしの上に被さる高梨さんの塊は、ありありと存在を主張する様に昂ってらっしゃいました。わたくしの太ももに押しつけられる熱さは、桜色のサテンに覆われた先端の冷たさと相対的に高まってゆくのです。
「もっと!」
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「ぁあぁぁ・・・ぁ・・んぁ・ぁぁ」
高梨さんの上体が離れ、左膝がナイティごと太ももの狭間をくじった時・・・わたくしは高い喘ぎ声を上げてしまったのです。
快感に閉じた瞼越しにも、強いフラッシュの明かりがわかりました。
「いやっ」
「だめだ!」
ジィィ・・・パッ・カシャ
高梨さんの手がわたくしの両手を左右に押さえ込みます。
先ほどよりも数倍強い光の中で、わたくしは彼にねぶられた乳首が桜色のナイティから物欲しげに・淫らに・・・透けていることに気付いてしまったのです。
ジィィ・・・パッ・カシャ ジィィ・・・パッ・カシャ
「ゆずる・さ・ん・・・だ・め・ぇぇ」
「言ったはずだ。もっと恥ずかしいことになるって、な。」
今度は、まぁるくわたくしの蜜のしみをつけたナイティの裾まではだけ上げるのです。
自由にされた腕は、なにを覆い隠せばいいのか・・・わからなくなっていました。
SnowWhite 39
ジィィ・・・カシャただでさえ、高梨さんの声はわたくしの理性を奪う深くて丸い声でした。
その声の響きとシャッター音は、きっちりと装ったナイティの下の身体を内側から蕩けさせてゆくのです。
秋に美術館で初めてお逢いしてお名刺をいただいた後で、わたくしは書店で彼の写真集をいくつも目にすることができました。
彼の写真の中の美しい女性は、どなたも大変魅力的でありながら決していやらしくはなかったのです。ただ、高梨さんがおっしゃるように、レンズを見つめる女性の瞳はどなたも濡れた様に光っておりました。
どんなにマニッシュなスーツで装っていても、どれほどきっちりと襟を合わせた和服をお召しになっていても、思わず抱きしめたくなってしまうたおやかさが漂っていたのです。
「俺は商品には、手は出さない。」
春にお逢いした時、世界中の街にいる恋人を切って来たという高梨さんに、綺麗な女性に囲まれていればそれでよろしいでしょう?と、いじわるを言ったことがございました。そのとき、きっぱりと・・・高梨さんはそうお答えになったのです。
誰1人抱いたりはしない、と。「たとえ据え膳でもね。」
カメラの前に立つ快感を知っているプロだから、彼の愛撫がなくとも、高梨さんの深くて丸い自分だけに語りかけてくれるような声と、肌の上をなぞるような視線に、彼女たちは反応してしまうのでしょう。
高梨さんの、柔らかな瞳に映るわたくしの表情は・・・あの写真集の女性たちのように・・・
わたくしは、とうとう押さえていた高梨さんの左手を離してしまいました。
「心配しなくていい。下劣な行為のあからさまな写真が欲しいわけじゃない。もちろん、この家からは一歩たりとも外には出さない。」
こくん・・・
高梨さんの言葉に首を縦に振ったのです。
「でも、お願い。こんなに明るいのは・・・いや。」
メインベッドルームは天井のシーリングライトが、最初より少し光量を落としているだけでした。部屋の三方にある間接照明は、全く使われていなかったのです。
「午後のベランダであんなに激しくしたのに、か?」
ふるふると・・・首を横に振りました。
あの桜の日のことは。首輪を付けられ、牝猫のように扱われ、あまりに破廉恥な姿をレジデント棟16階の超高層ビルの望遠鏡の前に晒したあの日とは・・・。
「今夜は・・優しく・・愛してくださるって・・・」
「ああ、そのつもりだ。」
「だったら・・・」
「もっと恥ずかしいことになるぞ。」
「えっ・・・」
「それでもいいなら、祥子の望み通りにしてあげよう。」
高梨さんが何をおっしゃっているのか、わたくしにはわかりませんでした。
それでもさっさと、サイドテーブルの上にあるコントローラーでシーリングライトの調光を落としていただいたことで、わたくしはようやく堅くしていた身体を高梨さんに委ねたのです。
SnowWhite 38
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・高梨さんの昂った声よりも・・・その時のわたくしの耳を刺激していたのは、デジタルカメラのシャッター音でした。
プロのフォトグラファーの指が一枚一枚切ってゆく、そのリズミカルな音がわたくしの内をざわめかせていることに、そしてその事実に戸惑っている自分自身に気付いてしまったのです。
「ゆずるさん・・・」
「ん?なんだい。」
ようやく、この姿での撮影に満足なさったのでしょうか。高梨さんはカメラをサイドテーブルに置くと、あのリモコンを手にしてわたくしの側に戻ってらっしゃいました。
シャッター音が止まっただけで、ほんの少し、わたくしの鼓動も収まるのです。
はしたない姿をカメラに収められることに、感じてしまう自分をとうとう確信してしまいました。
「おねがい・・」
パジャマの上着を脱いで、わたくしを抱きしめようとする高梨さんの左手を両手で包んだのです。その手の中には、ベッドの上を写す様に仕掛けられている5台のデジカメのリモコンが握り込まれていました。
「ここから先は、お写真は・・・ゆるして・・」
「写真がどうした。」
「もう・・・ね」
「祥子のここが感じ過ぎるからか?」
「あぅっ・・・」
空いたままの右手が、ナイティのストレッチサテンを押し上げるGカップの乳房を握りしめるのです。
「カメラに写されることで感じたのか。」
「はぁっ・・・ちが・・ぁぅ・・・」
ジィィ・・・カシャ
ぴく・ん・・・ たった一回のシャッター音で、わたくしは身体を慄かせてしまったのです。
「敏感だね、祥子」
ジィィ・・・カシャ
「ぃゃ・・・・ぁ」
さきほど、わたくしを口戯で追いつめた時に機能していたカメラなら、いま切られたデータにはベッドの上に横座りしたわたくしの頭頂くらいしか写ってはいないでしょう。
ジィィ・・・カシャ
「ぁん・・・」
なのに、高梨さんはわたくしのことを試す様に、間隔を開けてシャッターを切ってゆくのです。
「嬉しいよ、俺のカメラに感じてくれて。大丈夫、恥じることはない。どんなプロのモデルでも、いやプロのモデルほど俺のカメラには感じてくれる。カットを重ねるごとに、眼差しも身体のラインもどんどん綺麗に艶かしくなる。それが俺のカメラだ。」
ジィィ・・・カシャ
「ん・ぁ・・・」
「思った通りだった。祥子には素質がある。ほら、身体がどんどん震えて、感じているんだろう。それでいいんだ。」
SnowWhite 37
「ん・ん・・・・だめ・・・」
胸元から差し入れた手で、ストレッチサテンとレースのなかでつぶれてしまいそうなGカップの乳房の形を整えるのです。室内の空気に晒されたままだった乳首に高梨さんの熱い手が触れただけで、わたくしの唇からは甘い声が洩れてしまったのです。
くっきりと立ち上がった乳房の先端は、きちんとナイティに覆われたことで・・・落とした影が一層淫らさを強調するようでした。
「腰を下ろしなさい。」
わたくしは跪いた姿勢から、ゆっくりと左側に脚を流す様に腰をおろしました。
先ほど高梨さんの手で引き下ろされ不安定に膝に絡み付いていたTバックは、脚を動かしたことでナイティの裾の中でまた少しふくらはぎへと下がってきていたのです。
「どれ・・」
「やっ・・・」
遠慮なく裾をくぐって高梨さんの手がわたくしのパンティを手にします。
それだけ身につけさせられていたガーターストッキングの滑らかさが、高梨さんに淫らさの証のような濡れたTバックを与えて・・・わたくしの形ばかりの抵抗を台無しにしていました。
でも、手にしたランジェリーを高梨さんはなんの躊躇もなくサイドテーブルのブラの上に置いたのです。
そして、裾をもう一度整えるとカメラを手にして・・・再び・・・。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「背筋を伸ばして、そう。」
スタジオでモデルに指示をするようにわたくしに掛ける高梨さんの声は、まるでわたくしにイラマチオをさせているときのような熱に包まれていました。
カシャ・・・ カシャ・・・
「ゆずる・・さん・・・」
「そんな心細げな声をあげてどうした、祥子。まさか、毎晩ブラジャーで身体を締め付けて眠っている訳じゃあるまい。」
カシャ・・・ カシャ・・・
どうして、そんなことがわかるのでしょう。
わたくしは自宅でも最低限のランジェリーしかナイティの下には身に付けませんでした。時には・・・なにも身につけないことも・・・。
「・・・はい」
「ならいつもと一緒だろう。それとも、あんなに小さな布切れが1つないことがそんなに一大事か?そんなに、泣きそうな顔をすることはないだろう。」
ふる・・ふる・・ わたくしは首を横に振ったのです。
高梨さんが口にしたものが、愛液と唾液にまみれたTバックであることはすぐにわかりました。
たしかに男性と二人きりで部屋に居る時の装いとして不自然なことはなにもありませんでした。いつも、二人きりになると最低限のランジェリーだけの姿に剥かれて・・・高梨さんの座るソファーの下の床に大きな猫のように侍らされることを思えば、きちんとナイティを身に着けた一見外からはなんの淫らさも感じさせない姿でいられるだけノーマルだと言えるかもしれません。
ナイティの下が、ガーターストッキングだけというはしたなさも、心もとなくはありましたが、いままでに全く経験がないわけではありませんでした。
「祥子の泣きそうな表情も、いい。同じ顔を俺の身体の下でさせたくなる。」
SnowWhite 36
「まだ何一つ脱がせていないのに、そんなに恥ずかしいか?」「・・・・はぃ」
辱めだとは思いませんでした。
写真を撮りたい、そうおっしゃったお望みを受け入れたのは他の誰でもないわたくし自身でした。今夜、高梨さんは屈辱にまみれさせるような行為は何一つ要求なさらなかったのです。
従わない時に、与えるかもしれない・・・お仕置きを告げる言葉として以外には。
そして、その言葉に芯から反応してしまうのは、わたくしのはしたない心と身体だったのですから。
「本当に祥子には桜色がよく似合う。」
「・・・あっ」
抱きしめるように回した高梨さんの腕が肩紐を引き下ろされたブラのホックを外します。わたくしは裾を引き上げていた手を思わず離そうとしてしまったのです。
「そのままだ。まだ動くんじゃない。」
ナイティの上半身に使われたストレッチレースのせいで、ゆるみはしたもののブラが落ちてくることはありませんでした。高梨さんの手は、今度は引き上げた裾の中に入ってゆきます。
「セクシーなランジェリー姿を楽しもうかと思ったが、このナイティごと祥子を抱きたくなった。」
太ももの脇を這い上る高梨さんの手が、レースのTバックのサイドにかかりました。ハイレグに作られた細いウエストのレースを掴むと一気に膝まで引き下ろすのです。
「やっ・・・」
「祥子、もういいよ。手を離しなさい。」
わたくしはゆっくりと、裾を掴んだ手を下ろしてゆきました。それでも、きつく・・・羞恥を堪えるように、ナイティの裾を握りしめた指を開くことができなかったのです。
「ふふ、仕方ないね。」
高梨さんは、笑みを浮かべると一本一本優しく開いてゆかれるのです。
ちゅっ・・・開いた手を右も左も・・・ダンスを踊る前のパートナーのようにご自分の手で掬い上げると、手の甲にキスをして、ナイティの左右に下ろしてゆきます。
わたくしの下半身は中途半端なまま、桜色の裾の中にまた覆い隠されていったのです。
「そんなに不安そうな顔をしなくていい。」
伸ばされた腕は、わたくしの髪を中途半端に止めている髪ゴムを外しました。
細い毛質のストレートの黒髪に、彼は指先を入れてほぐしはじめたのです。
さらさらと、高梨さんの手の中でわたくしの髪はいまは剥き出しになっている背中に滝のようにまっすぐに落ちてゆきました。
「うん、綺麗だ。」
満足そうに頷いた高梨さんの手が、次に伸びたのは二の腕にかかっていたブラのストラップでした。両方のストラップを手首から抜き取ると、上半身にフィットしたストレッチレースの中から、Gカップのブラを引き出したのです。
「ぁん・・・」
中途半端な状態のまま乱されたランジェリー姿を晒すことはとても恥ずかしく不安でしかありませんでした。でも、それを全く奪われる心細さは・・・こんな状況でも変わりません。
「このままじゃ、祥子もいやだろう。」
ブラをサイドテーブルに置くと、高梨さんはまたわたくしの手をとって・・・先ほどの口戯の間に腕から外れたナイティの肩紐を再び元に戻したのです。それも、今夜わたくしが自分で着替えた時と同じように。
SnowWhite 35
つつ・・っ・・・
内ももを、シャッター音に合わせる様に走る愛液の感触に、わたくしは肩を震わせてしまったのです。
「そのまま、ナイティの裾を上げてごらん。」
「ぇ・・・」
「簡単だろう。自分の手でその桜色の裾を持ち上げるんだ。ウエストに巻いたガーターベルトが見える場所まで。」
「そんな・・・」
「それとも、カメラの前でオナニーをして見せるか?自分の手で俺がいいと言うまで逝きつづけるんだ。1GBのコンパクトフラッシュなら何枚でもある、何百枚でも写してやる。」
ばっ・・・・ わたくしの膝元には、高梨さんの手から撒かれた5枚のコンパクトフラッシュが散らばっておりました。これだけで、何百枚分のはしたない痴態を記憶することができるでしょうか・・・。
いつしか高梨さんはご自分のことを<俺>とおっしゃるようになっていました。
この方の男らしい容貌に相応しい・・・おっしゃりよう。でも、同時にその言葉は一度お決めになったらわたくしに有無を言わさずに全てをさせるだけの力を備えてもいたのです。
わたくしは、少しだけ視線を落とすと・・・ゆっくりとナイティの裾を手の中に握り込んでいったのです。
カシャ・・・ カシャ・・・
165cmの身長のわたくしが着ても床ぎりぎりのレングスのナイティなのです。
高梨さんがおっしゃるように持ち上げるためには、手の中一杯にシルクサテンを掴まねばなりません。
「もう少しだけ脚を開くんだ。そう。」
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
シャッター音が微妙に移動してゆくのはわかります。
でも、それを確かめる勇気はわたくしにはありませんでした。
先ほどから滴り続ける淫らな愛液を吸い込んだストッキングと、その上の濡れた太ももと・・・溢れ出る蜜と高梨さんの唾液で色を変えているに違いない・・・桜色のレースのTバックまでもを、自ら晒さなくてはならないのですから。
カシャ・・・ カシャ・・・
唇を噛んで、前裾を引き上げてゆきます。
ベッドのシーツに埋もれるような膝頭から・・・滑らかな薄いシルクに覆われた太もも・・・ガーターベルトの留め具を受け止める二重になったストッキングの縁と柔らかな素肌の太もも・・・そして・・・恥ずかしいほどに乱れたままの・・・太ももの狭間・・・。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
両のGカップの乳房は、もうとうに乱されたナイティとブラの上半身からこぼれ落ちておりました。
レンズ越しの高梨さんの視線に耐えることができずに次第に伏せてゆく顔を覆う黒髪は、時折思いついたかのように鴇色の昂った先端を嬲ってゆくのです。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「ほぉぅっ」
無言のまま、幾度シャッターが切られたことでしょう。
高梨さんの堪え切れない大きなため息とともに、カメラが下ろされたのです。
「えも言われぬ表情をするね。祥子と逢うたびに、いつもその恥じらいを手元においておきたいと思っていた。ようやく、叶った。」
お見舞いコメントありがとうございます
今回の風邪はちょっと質が悪いようでなかなか抜けません。コメントも沢山頂戴しているのにきちんとお返事できなくて本当に申し訳ありません。アップも少しお休みさせてください。
本当にごめんなさい。いましばらくお時間をください。
SnowWhite 34
「い・ゃぁ・・」カシャ・・・ カシャ・・・
「今度はバックで、牝犬のように腰を上げさせてねぶってやろうか。」
「だめ・・・ゆるし・て・・・」
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「何を言わなくてはならないかさえ、わからないのか?」
ふる・ふる・・・・ わたくしは首を横に振ったのです。
言わせたい言葉はわかっておりました。でも、あまりにはしたない内容をどう口にしていいのか・・・考えもつかなかったのです。
カシャ・・・ カシャ・・・
「解っているはずだ、祥子なら。さぁそこに跪いて言うんだ。」
「・・・ぁぁ」
言葉にしようとして、躊躇する・・・その表情までも高梨さんはカメラに納めてらっしゃいました。
一眼レフデジタルカメラを構えていらっしゃるいまは、ズームアップさえ彼の手で操作されているのです。シャッター以外の機械音のしない撮影は、わたくしのどこを狙って切られたものかすら想像できないのです。
シャッター音が響く度、わたくしは産毛を逆撫でされているようでした。
カシャ・・・ カシャ・・・
「これからは・・・」
「これからは?」
「祥子を・・・ゆずるさんのお口で・・・・ あぁっ・・・」
わたくしはこれ以上の言葉を紡ぐことができないまま、両手で顔を覆ってしまったのです。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「どうした。ぞんなに難しいことじゃないはずだよ。他の女なら嬉々としてベッドで微笑みながらねだるくらいなことだ。」
「ゃ・ぁ・・・」
「祥子には、出来ないか。確かにそうだな。」
カシャ・・・ カシャ・・・
「俺を見るんだ、祥子。」
顔を覆った両手をゆっくりと下ろしたのです。そして・・・恥じらいに朱に染まった顔を上げました。
「これからは逢う度にご主人様の口で祥子をねぶってください、これなら言えるだろう?」
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「これからは・・・おあいするたび・・に ごしゅじんさまの・・おくちで・・・しょうこを・・ねぶって・・して・・くださ・い」
シャッター音とカメラ越しの高梨さんの眼差しは、わたくしに視線を落とすことを許してはくれませんでした。はしたない懇願の言葉への躊躇いを表す事ができたのは次第に細くなってゆく声だけだったのです。
カシャ・・・ カシャ・・・
とろぉ・・・
自ら口にした言葉と、カメラによる視姦がまた一筋わたくしの太腿へと愛液を滴らせるのです。
両手を胸元を隠す様に合わせ・・・跪いた聖女のような姿で、ナイティの裾が膝元までをすっぽりと覆っていなければすぐに高梨さんのカメラに見つけられてしまうほどにたっぷりと、潤いは内ももを流れ落ちてゆきました。
SnowWhite 33
「感じやすいだけだろう。祥子の身体が。」「夫でさえ、口にする気にもなれないほど・・なのかと思ったら、哀しくて二度と・・・。」
「こんなにくらくらするほど、フェロモンが濃くて旨いのにもったいない。馬鹿な男だな。」
「でも・・・ゆずるさんだって・・はじめて」
そうだったのです。
わたくしはどんな方に愛されても、男性にお口でご奉仕することがあっても、口戯で逝かされることはさほど多くはなかったのです。
ほとんどの場合、口戯が必要ないほどにわたくし自身が溢れ・・・潤い過ぎていることが原因なのはわかっておりました。そして、わたくしを貪ろうとなさるころには、もう男性ご自身が昂りのピークにいらっしゃることが多いことも・・・。
「いや、はじめてじゃない。エレベーターの中でしただろう。」
「ぁっ・・・」
満開の桜の坂道を上り詰めたところにあるレジデント棟の高梨さんのお部屋へゆくエレベーターの中での・・・ゲーム最後のキス。
「あの時も、美味しかった。エレベーターを緊急釦を押して止めてしまおうかと思ったくらいだからな。」
「ぁん・・・」
自らのはしたない香りのするお髭に埋もれながらキスをするのは、これ以上ないほどの羞恥でした。わたくし自身も、男性をお口で愛したあとそのまま唇をおねだりすることにはとても抵抗があったのですから。
なのに、次第にわたくしは不思議な昂りを感じはじめておりました。フェロモンだと言われるわたくしの香りは高梨さんの香りに溶け合い・・・甘く・身体の芯を疼かせたのです。
「祥子は、汚くなんかない。祥子のはとろとろで、香りが高くて最高のジュースだ。花びらも、綺麗なピンク色をしている。いつまでも舐めていたいくらいだ。いつも我慢できなくなって、口でしてやれなくなるが、祥子がそんな風に気にしてるなら、これから逢う度に逝くまで何度でもねぶってやる。」
高梨さんはわたくしの頭を抱え左耳を右手で塞いで・・・残った右耳に一言づつ、区切る様に、この言葉を囁くのです。
「あ・・ん・・だめぇ・・・」
とろぉぉ・・・ わたくしの中から、新たな蜜が高梨さんの一言ごとに溢れ出してくるのがわかりました。
シルクのTバックのクロッチではもう留めきれない潤いは、揃えて横に流した太ももの狭間をしっとりと濡らしてゆきました。
「だめ?違うだろう、祥子」
頭ごと抱き締める様にしていた高梨さんは、わたくしを放すとベッドの上のカメラを構え直したのです。
カシャ・・・ カシャ・・・
「こっちを見てちゃんと言うんだ。」
わたくしは、この先何度でも与えられることになった眼も眩むばかりの快感を思い起こして、霞む瞳を上げました。
「だめ・・・」
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「だめじゃないだろう。言えないなら言える様になるまで、またねぶってやるだけだ。」
カシャ・・・ カシャ・・・
「5台のカメラで視姦しながらな。」
ごめんなさい
沢山コメントをいただいているのに、お返事出来なくて申し訳ありません。ちょっと酷い風邪を引いてしまったようで・・・。
エントリーは明日も通常通りいたしますが、お返事はもう少し・具合が良くなるまで待っていてください。
ほんとうに・・・ごめんなさい。
SnowWhite 32
高梨さんの手で撮影のために美しく整えられていたわたくしの姿は、酷く寝乱れたように変わっていました。片側に三つ編みにまとめていた髪は、さらさらのストーレートヘアのせいで解けてシーツの上に広がっておりました。ストレッチレースで出来ているナイティのトップスが、アンダーバストからウエストまでのラインにぴったりと添っていなければ・・・いまごろわたくしの身体はカメラの下にランジェリーだけの姿を既に晒してしまっていたことでしょう。
サテンの裾は、もうわたくしのストッキングに包まれた脚をほんの僅かも・・覆い隠してはいませんでした。
腰の周囲を桜の花叢のように彩っていたのです。
カシャ・・・ カシャ・・・
リモコンではない、ダイレクトなシャッター音にわたくしはものうげに視線を上げました。
「こんな姿・・だめ・・・」
「だめだ。そのまま」
両手でナイティの裾と胸元を直そうとする・・・せめて髪を整えようとする・・わたくしを一言のもとに制するのです。
カメラの下から見える高梨さんのお髭は、わたくしが溢れさせたはしたない潤みでところどころ光ったままでした。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
わたくしは、胸元を押さえてゆっくりと上半身を起こしました。
今度は高梨さんからの制止はありません。Tバックのショーツを付けたままで貪られた太ももの狭間を、隠す様にナイティを整えても黙ったままシャッターを押し続けていたのです。
カシャ・・・
「祥子」
「なんでしょう。」
高梨さんが口を開いたのは、わたくしのすぐ近くにまで迫ったレンズごしの高梨さんの眼差しを見上げた時でした。
カメラを下ろすと高梨さんはじっとわたくしを見つめたままで、真面目な風に言葉を継いだのです。
「誰かに、汚いと言われたことがあるのか?」
「えっ・・ ん・・・」
汚い・・・一瞬なにを言われているかわかりませんでした。でも、次の瞬間、わたくしの唇を覆った女の匂いに・・・高梨さんからの口戯を受けている間に幾度もその言葉を口走っていたことを思い出したのです。少し前まで、わたくしの花びらを貪っていた高梨さんの唇も髭も・・・わたくしの香りに染まっておりました。
「あん・・だ・め・・・」
「誰かに言われたことがあるんだろう。そうじゃなかったら、祥子が自分のことを汚いなんて言う訳がない。」
「言われた訳じゃないけれど・・・」
「ん?」
「話さなきゃ・・だめですか?」
「聞きたいね。」
「元の夫に、こんなに濡れたものをわざわざ口することはないだろう・・・って言われたことがあったの。」
SnowWhite 31
「だめ・・・あぁ・・きたな・い・・ぃぃ」ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
ちゅる・・ぅぅ・・・
「あぁぁ・・・」
「暴れるんじゃない」
直接真珠を吸い上げる刺激に、わたくしははしたなく腰を迫り上げてしまったのです。
高梨さんの腕で、快感にずり上がってゆくわたくしの腰は強引に最初に横たえられていた場所へと引き戻されるのです。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
ちゅく・・・ちゅりゅ・るゅぅぅ・・・
「はぁぁ・・・ぁぁ・・だ・めぇ・・・・」
身を捩る度に、裾は捲れ上がり辛うじて腕にかかっていたナイティの肩紐は外れてゆきます。
カメラの視線から守ろうと胸元を隠した腕すら、いまでは快感を重ねて加えるだけのものでしかなくなっていたのですから。
ぺちゅ・・・ぺちょ・・・
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「ぁぁあ・・・やぁ・・ゆるし・・てぇぇぇ」
高梨さんの熱い舌が花びらの外縁と内側を順になぞってゆくのです。
ちゅく・・・
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「だめぇぇ・・・・・」
丸められた舌が花びらの中へと差し込まれはじめた時、わたくしはようやく自由になっていた腕で短く刈られた高梨さんの頭を押すように出来たのです。
でも・・その時は・・もう遅過ぎました。
くちゅ・・ちゅ・・・
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「あぁぁ・・・っくぅぅ・・・・だぁ・・ぇ・・・い・くぅ・・ぅぅぅ」
彼の熱く丸められた舌に中を抉られ、濡れた唇が花びらを・・そしてお髭と鼻の先端がわたくしの敏感な真珠を責め立てたのです。
押さえ込まれ逃げ切れない快感の中で、身体を左へと曲げる様にして・・・レンズの視線に晒されたまま、わたくしはまた・・極めてしまったのです。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「ゆる・し・て・・・」
じゅるぅ・ぅぅ・・・
シャッター音はまだ続いていました。
そして、高梨さんの口戯も。
「逝ったのか、祥子。」
高梨さんの声は、わたくしの茂みの中でくぐもっていました。
そして言わずもがなのことを、聞かれるのです。
彼の腕の中で淫楽に耐え切れずに暴れる腰の動きも・・・彼の唇の中で熱と潤みを増してゆく花びらも・・・彼の頬を挟み込むわたくしの太ももの震えさえ、全てがそのことを告げているのですから。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「は・・いぃ・・・ あぁっ・・ゃっ・・・」
くちゅっ・・
わたくしの答えを確かめてから、舌先をわざと真珠の上に滑らせて高梨さんは顔を上げたのです。
SnowWhite 30
カシャ・・・ カシャ・・・「祥子、感じているね。」
「や・・ん・・」
「こっちをご覧。」
「・・・ん」
「譲だよ。僕の名前は譲だ。」
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「ゆずる・・さ・ん」
わたくしの唇の動きを1つも逃さない様に、シャッターが押されてゆくのです。
「もう一度、呼んでごらん。」
カシャ・・・ カシャ・・・
「・・・ゆずるさん」
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「そうだ。覚えていてくれ。ああ、綺麗だ。祥子は本当にカメラに感じてるんだね、その濡れた眼を見ればわかる。」
「ゃ・・・」
「だめだ。目線はここだ。」
レンズの軸線を少し外した場所に高梨さんの左手が差し出されます。
伏せようとした視線を、引き上げさせられます。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
「きゃっ・・・」
そして、唐突にシャッター音は止まったのです。
いつの間にか、わたくしは眼を閉じていたようです。
ぐい、と足首を掴んで脚を広げられてはじめて高梨さんが足元にいらしていたのに気付いたのですから。
「祥子の匂いでくらくらするよ。どんな風になっているか、見せてもらおう。」
「やめて・・・」
わたくしの言葉にも躊躇することなく、高梨さんの両手は膝を大きく広げてゆきます。
「このランジェリーはシルクだろう。台無しにならなければいいけどな。」
じゅる・・っ・・・
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「あぁぁぁ・・・っ」
高梨さんの唇が、はしたなく濡れそぼったTバックの細いクロッチごとわたくしの花びらを吸い上げたのです。
じゅるっ・・・じゅ・・りゅっ・・・
「だ・め・ぇぇ・・・ゆずる・さぁ・・・ん」
次々と襲う快感を堪えようとわたくしは右手でそのまま身体の脇のシーツを強く掴みました。左手は、高梨さんの頭を桜色のランジェリーから引きはがそうとするのですが・・・あっという間に彼の右手に捕まえられてしまうのです。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
じゅるぅぅぅ・・・・
「はぁ・・ぁぁぁぁぁあ・・・」
今日この部屋で初めて奪われたディープキスのような舌遣いです。
いつの間にか高梨さんの舌は、Tバックのクロッチを押しのけ直接わたくしの真珠を・・・はなびらを・・・ねぶりはじめたのです。
SnowWhite 29
「この部屋にセットしてあるカメラは5台だ。僕がファインダーを覗く訳にはいかないからね、おなじ位置にズームやアングルを変えて数台セットしてある。」「そんなに・・・」
スタジオ撮影の現場でも、それほどの機材を一度に駆使することなどありません。
近視の眼でじっと見上げると、ベッドの上の天井照明の明かりが途切れるあたりに2つのカメラがレンズをこちらに向けていたのです。
ほかに、3台。いえ、先ほど高梨さんがご自分で構えていらしたカメラを含めると全部で6台。この方がプロのカメラマンだとしても・・・このベッドルームはあまりに・・・贅沢に過ぎる撮影現場でした。
「気付いていたかい。昼間の祥子を撮りながら、僕はレンズの向こうに今のような放恣な君を見続けていた。まるで母親のように真面目に料理をする祥子を撮っている時でも、僕は半分昂り続けていたんだよ。」
高梨さんは言葉でわたくしを捉えたまま、左手でストッキングに覆われた脚を愛でる様にしながらランジェリーの裾を引き上げ、右手でさきほどガーターベルトに挟み込んだ裾を引き出すのです。
「不思議だった。ずっとSの嗜好なしには満足できなかった。だから、いままで祥子には随分ハードなこともさせてきたしね。」
街中をランジェリーにコート1枚で歩かせたり、ご自分の部屋のベランダの柵にわたくしを首輪で繋いで鞭で打ったり・・・。長谷川さんとは違う嗜好ではありましたが、まごうことなくこの方もS男性だったのです。
高梨さんは、そっとわたくしの脚の間から抜け出すと両の足首を掴んできれいに揃えてくださったのです。
「でも、今夜はノーマルに感じる祥子の写真が欲しくなった。拘束して強制的に快感を注ぎ込んで逝く祥子ではなくて、僕の愛撫で綺麗に高まってゆく祥子の姿がね。
だから、今夜は首輪もしない。手錠も、革の拘束具も、玩具も鞭もなしだ。」
高梨さんがベッドの上に置いたカメラを取り上げたのです。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
ご自身で付けられたポーズのわたくしにレンズを向けてシャッターを切るのです。
「その手を除けるんだ、祥子。」
わたくしは再び両手で乳房を覆っておりました。
右目でファインダーを覗きながら、同じ様に見開いた左目でわたくしをじっと見つめます。その視線に・・・わたくしは身体の芯が熱くなるのを、止めることができなかったのです。
「祥子。」
重ねられた言葉に、わたくしはゆっくりと腕を外していったのです。
カシャ・・・ カシャ・・・
右手をゆっくりと、はずして・・・
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
左手を外す時には、わたくしは高梨さんとカメラの視線から逃れる様に、顔を背けてしまったのです。
カシャ・・・ カシャ・・・ カシャ・・・
手の戒めを解かれて、仰向けになった身体の上でGカップの乳房がたゆ・ゆん・・と形を変えてゆきます。
その間も止まらないシャッター音に、わたくしは左手をみぞおちの上・・・丁度心臓の当たりに添えてしまいました。
真っすぐに伸ばされていた脚は、胸元を露にするにつれて広げられた裾からランジェリーだけの下半身を守る様に、自然と左膝を寄せるように少しだけ引き上げられていたのです。
SnowWhite 28
「指先まで快感を堪えようとするその手も綺麗だが、手を下ろしなさい、祥子。この家には僕と祥子の二人きりだ。まわりには家がないだろう。それにこの家は木造だが壁が厚い。外には祥子の声は漏れない、大丈夫だ。」ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「あぁぁっ・・・いっ・ちゃう・・・」
高梨さんの愛撫は始まったばかりなのに・・・。
わたくしはとうとう膝を頽れさせてしまったのです。
シャッター音は止まっていました。
高梨さんに凭れ掛かる様に、荒い息を吐きながらわたくしは突然に訪れた絶頂の余韻に漂っていたのです。
「どうした。まだ、何もしてないだろう。」
ざらざらとわたくしの乳房を高梨さんのお髭が擦りあげます。
「わから・・ない・・の・・・ や・・はずかしい・・わ」
「カメラに感じたのか?」
昨年のお正月に、美貴さん・山崎さん・石塚さんに嬲られながら望月さんのカメラで写された時には、激しい羞恥は感じたものの性感を高めるという点ではあまりカメラを意識することはありませんでした。
でも、今夜は・・・
「祥子、返事はどうした?」
高梨さんの前にぺたんと膝を付いて、わたくしははじめて彼の言葉の意味を理解しました。
条件反射のようにふる・ふると首を横に振ります。それは、真実そうだったのではなく、自らの痴態を記録に残される恥辱に感じる・・・はしたない女だと思われたくなかったからです。
「いや、嘘だろう。調べればすぐわかる。」
「えっ・・・」
「こっちだ。」
眼の前のわたくしを抱きしめると、そのまま高梨さんは立ち上がり・・・彼の背後にあるベッドへと誘うのです。
ベッドはカバーも上掛けも全て外されて、真っ白なシーツだけになっていました。
「あぁっ・・・だめっ・・」
わたくしの身体を、ベッドの上に乱暴に横たえるのです。
まろびでたままの乳房を両手で覆ったわたくしは、後ろ向きに倒された恐怖感に・・・バランスを取る為に咄嗟に脚を開いたのです。
その瞬間を高梨さんは見逃しはしませんでした。
オフホワイトのパジャマ姿の大きな身体をわたくしの両脚の間に割り込ませると、捲れ上がったナイティの裾を両手でたくし上げていったのです。
「おとなしくするんだ。」
ジィィ・・・カシャ
左手だけではだけられた胸元の・・・辛うじて先端だけを覆い隠し、右手を伸ばしてナイティの裾を元に戻そうとしたのです。その一瞬の姿を先ほどとは違う位置にあるカメラのシャッター音が狙います。そういえば、先ほどもシャッター音が聞こえた場所は・・・1つではなかったような気がいたします。
「いや・・・いくつあるの?」
「教えたら、おとなしくするか?」
「・・・はい。」
このままどこから撮られているのかわからない不安のまま痴態を晒すなんて、わたくしには出来ませんでした。
SnowWhite 27
「あぁっ・・」高梨さんの左手は、全く容赦しませんでした。
ナイティの左肩をぐいと引き下げ、ハーフのGカップのブラに収まり切れずに上でたわわに揺れる、白い乳房さえカメラの前に晒すのです。
「それも、このナイティのために選んでくれたんだろう。嬉しいよ。」
確かに、おっしゃるとおりでした。
ご一緒に花見をしたあの日。わたくしにプレゼントをしてくださったこの素晴らしいナイティのために、このランジェリーのセットを同じショップで買い求めたものでした。
さくら色という同じ色を求めるのが難しい微妙な色味を、プロのフォトグラファーである高梨さんの眼は見逃してはいませんでした。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
わたくしの肌の柔らかさを確かめるように指先でなぞりながら、彼の指が首筋からブラの端まで降りてゆきます。ブラの上に出ている一番柔らかい部分に指先をめりこませる間もシャッター音は止まりません。
「ここにキスマークを付けたくなるな。」
「あぁん・・ゆるし・・て・・」
「ふっ、祥子がどのくらい感じているのか、確かめさせてもらおう。」
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「あぁぁぁ・・・だめ・・ぇっ・・」
高梨さんの左手にブラのカップを引き下ろされ、はしたなく昂り切った鴇色の先端までスマートメディアに写し込まれてしまうのです。
羞恥に身を捩り、レンズから逃れようとしても高梨さんの手がそれを許してはくれませんでした。
「祥子。」
「おねがい・・・ゆるして・・」
わたくしは、後ろから抱きしめたままの高梨さんを振り返りました。
「何を許すんだい。」
「おしゃしん・・・はずかしい・わ・・」
「恥ずかしがる祥子を写したい。」
そして、また肩先に唇を触れるのです。
「ここが桜色に染まってとてもきれいだよ。その声も、もうこうしていても香るほど溢れさせているフェロモンも写し込めないことが残念でならない。カメラに感じている祥子をもっと写したい。きっと綺麗だ。」
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「あぁぁ・・ん・・」
ウエストを掴んでいた腕を解くとわたくしの足元に膝を突き、剥き出しにした乳房の先端をねぶりながら、右の肩も乳房も剥き出しにしてゆきます。
アングルのせいなのでしょう。
わたくしをリクライニングチェアの側から一歩も動かさず・・・愛撫を重ねてゆきます。
高梨さんのおっしゃるように、カメラには声は写りません。
それでも、左右の乳首を交互に舌先に転がされ指先で揉み込まれて、あられもなく引き出される溢れ出る喘ぎを堪えようと、わたくしは左手の中指を噛むしかありませんでした。
「あっ・・・あふっ・・・ぁぁっ・・・」
SnowWhite 26
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ高梨さんの手が、桜色のナイティのガウンの肩を左から少しずつ引き下ろしてゆきます。次いで、右の肩も。肩の丸みを超えたところで、ストレッチサテンのガウンは自らの重みで落ちてゆきます。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
肩先に高梨さんの唇の熱を感じただけで、わたくしは身体を慄かせてしまうのです。
「自宅に女性をつれてくるとね、武装したようにかっちりと装うタイプと、女を忘れた様にリラックスしてしまうタイプがいる。」
「あ・・ぁっん・・」
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
口づけは強く・・・軽い痛みを感じるほどです。
「僕は、そのどちらの女性にもそそられない。そういう場合はとっとと帰ってもらうか、客室にお引き取り願うことにしている。」
右腕はウエストをがっしりとホールドし、左手はわたくしの手指を体側で捉えながら先ほど見せてくださったカメラのリモコンを操っておりました。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「ゃ・・・ん・・ 他にも・・女性を連れてらした・・の・ね・・」
肩のストレッチレースを飛び越えて、高梨さんの口づけはわたくしの首筋へと一寸刻みに繰り返すのです。
唇の柔らかな感触と、高梨さんのお髭のちくちくが・・・柔らかな肌を刺激し続けます。
「ああ、この年までご清潔な生き方をしていたなんて嘘は言わないさ。」
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「ん・・だめ・・・」
一方的に与えられる快感から逃れようとしても、まるでソシアルダンスのリーダーのホールドのように、右腕と左腕でわたくしの身体は高梨さんの前に引き戻されてしまうのです。
「でも、この部屋でこうして過ごすのは、祥子が初めてだよ。」
ジィィ・・・カシャ
「あぁ・・・ん・・」
耳朶に甘噛みとともに届けられた熱くて甘い言葉に、わたくしははしたない声を上げてしまったのです。
「いつものあの部屋ならいざしらず、何日も田舎の家で一緒に過ごすと決めてここに来て・・・」
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「や・・あぁ・・だめ・っ・・・」
高梨さんの舌は巻貝のような耳をねぶりながら、左手はナイティの裾を引き上げてゆくのです。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「ぃやぁぁ・・・・」
自らの右肩に顔を埋める様にしても、羞恥は消えてはゆきませんでした。
引き上げられた左脚の前裾は、ガーターベルトに吊られたナチュラルのストッキングも、その上の太ももも・・・そしてそろいのレースで作られたTバックもガーターも・・・露にさせたままウエストに挟み込まれてしまったのですから。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
「こんなにセクシーなランジェリーを選んで身に着けてくれるんだからね。」
SnowWhite 25
「手を下ろして、僕を見て。さぁ、こっちへおいで。」カシャ・・・カシャ・・カシャ・
高梨さんはわたくしが近づくにつれてゆっくりと立ち上がり、最後はファインダーを覗くことなく左腕の中に抱きとめたわたくしに向かって、伸ばした腕の先でシャッターを切ったのです。
そのままカメラをベッドの上にぽとん・・と落とし、右手もわたくしの身体に巻き付けるように抱きしめるのです。
ちゅっ・・・額に、ミネラルウォーターで冷やされた高梨さんの唇が触れました。
「疲れただろう。ごちそうさま。美味しかったよ。」
「よろこんでいただけてなによりですわ。でも、わたくしの質問にまだ答えてくださってないわ。」
「質問?」
「そう、二人きりの時間まではお写真にしないって・・・おっしゃったのに。・・んぁん・・」
つい、と上がった高梨さんの右手がわたくしの顎を捉えると、そのまま唇を重ねられてしまったのです。
ジィィ・・・カシャ ジィィ・・・カシャ
えっ・・・
高梨さんの両腕はわたくしを捉えておりました。しっかりと抱きとめて唇を貪っているのです。なのに・・・シャター音だけが続きます。
口づけの最中なのに、わたくしは思わず眼を見開いて音の主を探してしまいました。
まさか、高梨さんの他に誰かが・・・。
「祥子、どうした。キスの途中に眼を開けるなんて君らしくないじゃないか。」
「だって、シャッターを切る音が。どうして?」
「ああ、気付いてなかったのか。これだよ。」
高梨さんはわたくしの身体を抱きしめていた腕を解いて、左手の中の小さな黒いものを見せてくれました。
「カメラのリモコン?」
「そうだ。祥子はこんなものにも詳しいんだな。」
「どこにあるんですか?カメラは。」
わたくしは、さきほど着替えてくる時に眼鏡を外してきておりました。
高梨さんのお宅で半日を過ごして充分に慣れたことと、この後は二人きりの戯れしかないとわかっていたからです。
「探してごらん。」
背後からわたくしの肩越しに腕を回して、抱きしめるようにした高梨さんが面白そうにおっしゃるのです。あまり良くはない視力で、音のした方をじっと見つめます。
昼間、何度かこのお部屋に入った時はカメラなどありませんでした。
そして先ほどこちらにミネラルウォーターを運んだときも・・・
ジィィ・・・カシャ
「ぁん・・・」
高梨さんが胸元へ重ねるように置いた手で、わたくしの乳房をいらうのです。
想像もしていなかった刺激に、わたくしが声を上げてしまった瞬間、シャッター音が聞こえたのです。
「あっ、あれ」
ベッドサイドの白木のラックのコンポの斜め上に1台の小さなデジタルカメラがありました。
「気付いたね。でも、あれ1つじゃない。」
「えっ・・・。」
「祥子が、セクシーなランジェリーなんか着けるからどうしても写真に撮りたくなった。」
SnowWhite 24
薄やみの中で眠そうにしている白雪を起こさない様に、キッチンを片付けて柵をきちんと止めてリビングルームを後にしました。持って来たのは冷やしたミネラルウォーターを3本と二つのグラスだけをトレイに乗せて、わたくしは一旦メインベッドルームへ戻ったのです。
8畳ほどの部屋はオイルヒーターで程よく暖められておりました。
ダブルサイズのベッドとライティングテーブルと椅子。そしてテレビと一人用のオットマン付きの革のリクライニングチェア。
白木づくりの部屋に合う、ナチュラルな質感で整えられた部屋でした。
床にはコットンでざっくりと織られた絨毯が敷かれています。
わたくしが何度かお邪魔した都心のお部屋も、独特の統一感のあるお住まいでした。
白でまとめられた寝室の天井に映し出された星空を、いまでも思い浮かべることができます。そして、その部屋のベッドで彼に愛されながら聞いた第九の旋律も。
いまは、ベッドサイドのラックにひっそりと置かれたウッディなコンポから、低く・高く、サティの美しく不思議な旋律が流れていたのです。
そして・・・ベッドの上には、春にわたくしにプレゼントしてくださった桜色のナイティが置いてありました。
寝る時のためにとわたくしはロングタイプの黒のマニッシュなナイティを用意して来ていました。
飲み物を置いたら、高梨さんが、着替えのために使いなさいと言ってくださった客間へそのナイティだけを取りにゆくつもりだったのです。
先ほどの夕食の席の会話で、高梨さんが今夜のランジェリーを楽しみになさっていることもわかっていました。
このままの姿で、着衣を剥いでゆく楽しみを差し上げるほうがいいのか・・・それとも・・・。
台所仕事をしながら繰り返した迷いの答えを、この桜色の贅沢な布が与えてくれたのです。
高梨さんが入浴されてもう随分になります。そろそろ戻っていらっしゃることでしょう。
ここで着替えて脱いだ衣服を晒すことがとても恥ずかしくて、わたくしは桜色のナイティのセットだけを手に取ると急いで客間へと向かいました。
「お待たせしました。」
着替えている間に、高梨さんが浴室からご自身のお部屋に向かわれたのが解りました。
お食事の前に入浴をして着替えた桜色のレースのランジェリーの上にナイティとガウンを羽織って、ロングヘアを左に流す様にまとめて三つ編みにしてから、わたくしは彼の部屋をノックしたのです。
カシャ・・・カシャ・・
「ああ、似合うな。」
扉を開けた部屋の中は先ほどより少し照明が落とされていました。
シャッター音と高梨さんの声が同時にわたくしの耳に届いたのです。
高梨さんは、革のリクライニングチェアに寛ぐ様に座ってカメラを構えていました。
小さな白木のサイドテーブルに乗ったミネラルウォーターは、お風呂から上がられてすぐに召し上がったのでしょう。もう半分ほどもなくなっていました。
「もう、こんなお写真は撮らないっておっしゃったのじゃないですか?」
「こんな写真ってどんな写真のことだい? 祥子、怒っている顔も魅力的だ。」
不意打ちのようなデジカメのシャッター音に、わたくしはふと顔を隠してしまったのです。
SnowWhite 23
「いつももっと早く入れてあげていたのでしょう。可愛そうなことをしたわ。」「いや、時間はあまり変わらないんだ。いつも、村の人間とここで飲む時は今と同じ様にしているしね。今日は、初対面の祥子さんと僕の二人きりだから自分も仲間に入るつもりだったらしい。」
「そう。ごめんなさいね、白雪。」
くぅぅん 甘えた声で、高梨さんの膝に鼻頭を擦り付ける様もとてもかわいいのです。
わたくしは、台所を片付け明日の下準備をしながらもどうしても視線は白雪を追ってしまいます。
「白雪は人間で言うと何歳くらいなの?」
「そうだな。18歳か20歳くらいかな。」
「まぁ、こんなに甘えんぼさんでも立派な大人なのね。」
囲炉裏からどっしりとした鉄瓶を持って、高梨さんがキッチンにいらっしゃいます。
「これにたっぷり水を入れてくれないか。」
「はい。 これくらいでいいですか。」
「ああ、充分だ。」
蓋をした鉄瓶を受け取って高梨さんはにっこりと頷いてくださいました。
このまま囲炉裏に掛けるに違いない鉄瓶。普通のやかんのようにぎりぎりまでお水を入れると沸騰して吹きこぼれてしまうのです。
たっぷりと・・・と言われても八分目よりこころもち少なめ。
それは普段使っている方なら、持てばすぐにわかるからです。
「そんなに炭をついで大丈夫なんですか?」
「ああ、白雪はさんざんいろんな眼にあってもう覚えてるから大丈夫なんだよ。暖房をつけたままにするよりもこっちのほうがいいみだいだからね。」
「それで鉄瓶を掛けておくのね。」
「ここは木の家だから密閉度はあまり高くないからね、炭をかけておいても二酸化炭素中毒にはならない。そのかわり乾燥しすぎないよう鉄瓶を掛けておくようにしているんだ。さ、これで準備完了だな。」
なかなか離れない白雪を構いながら、囲炉裏端で高梨さんが立ち上がりました。
「ステイ! ハウス!」
名残惜しそうな顔をしながら白雪はムートンの敷物のところに寝そべります。
「祥子さん、風呂に入って部屋にいくよ。白雪くさくなってしまった。」
「ふふふ わかりましたわ。」
「まだかかるのかい?」
「いえ、もう少しだけです。」
キッチンを除く部屋の明かりを高梨さんが落としてゆきます。
甘えて、いつもと違う空気にも慣れたのでしょうか。屋外の小屋にはない暖かさに包まれて白雪は薄やみの中うとうととし始めたみたいです。
わたくしは後片付けは終えて、明日の準備を初めていました。
凝ればいくらでも手を掛けられますが、それもあと少しできりが付きます。
「部屋で待っていてくれ。すぐに戻る。」
「はい。ゆっくり暖まってきてくださいな。」
「ははは・・・ いってくるよ。祥子さんも来てもいいんだよ。」
「わたくしは先ほどいただきましたわ。早く行ってらしてください。あんまり遅いと先に眠ってしまいますわ。」
「それは寂しいな。直ぐに戻る。」
白雪のための柵ごしにわたくしの上体を引き寄せて、ちゅっと軽くキスをして高梨さんは浴室に向かわれました。
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「珈琲か、お茶でもお入れしましょうか?」「いや、僕はミネラルウォーターでいい。祥子が欲しいなら好きなものを入れたらいいよ。」
「それじゃ、わたくしもミネラルウォーターをご相伴させていただきます。お酒の器は下げさせていただいてもいいですか?」
「おねがいするよ。そろそろ白雪を部屋に入れてやりたいしね。」
窓の外、ホットカーペットの敷かれた犬小屋の中から明るい室内をじっと見ている白雪の姿が見えました。
「キッチンはこのままでもいいんですか?」
台所の床には、明日のために料理したおせちの鍋がいくつも並んでいます。
どんなに白雪がお行儀のよいわんちゃんでも、こんなに魅力的な香りがしてはいたずらをせずにはいられないことでしょう。
「そこのカウンターの端に木製のゲートがあるだろう。壁と床に小さな金具で止められる様になっている。」
見てみると、シンクの右脇にシンクと同じ1m20cmほどの高さの折り畳まれた木の柵がありました。壁まで90cmの距離を伸ばして、壁と床の金具を止めるともう白雪では乗り越えることもできなくなります。
「まだ祥子が台所をしているうちは仮止めでいい。止めておいてくれないか。」
「はい。わかりました。」
わたくしが壁との留め金の1つを掛けたのを確認して、高梨さんは改めてぞうきんを手にするとテラスへの窓ガラスを開けました。
「白雪!」
わふっ・・・ 暖かな小屋から膝を折った高梨さんの側に白雪が駆け寄ってきます。
「おっ、きれいにドッグフードは食べ切ったんだな。」
わん!・・ 白雪の頭と腰をなでてから、高梨さんは後ろ足と前足をそれぞれぞうきんで拭って、ようやく室内への通り道を開けてやります。
わふっ・・わん・わん・・
いつもとは違う室内の空気に白雪もほんの少し興奮気味のようでした。
キッチンのわたくしの側に来たり、さきほどまでお食事をしていたテーブルの上を不思議そうに眺めたりして、最後にはまるでそこが指定席だといわんばかりに、炉端の一番壁よりに置いてあるムートンの敷物の上に王様のように寝そべるのです。
日本酒に酔った身体には、開いた窓から流れ込む冷気も心地良いものがありました。
しばらく外にいらした高梨さんは、きっと犬小屋の中の電気毛布のスイッチを切ってらしたのでしょう。
「待て!」
テラスから戻ってくると、遊ぼうと半身を起こした白雪を制してぞうきんを手に浴室の方へ向かわれました。
それから、タオルと水の入った器を持って戻ってらしたのです。
これも定位置なのでしょうか。テラスへの窓の側にある腰高の出窓の下に、タオルを敷いて白雪用の水の入った器を置きました。
白雪は満足しているのでしょうか、水を飲みにゆこうとはしませんでした。
高梨さんが全てを終えて囲炉裏の側に腰を下ろすと、くぅぅ~んと鼻を鳴らして彼の側に甘える様に身体をすりよせます。
「なにを甘えてるんだ。白雪」
そうおっしゃりながら、高梨さんの顔はまるで我が子を見る様に幸せそうな笑みに包まれていました。囲炉裏の側に置かれた容器から、燠火のようになっている囲炉裏へと炭を足してゆきます。
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さんじゅうく・よんじゅう・・・心の中で秒数をカウントし終えると手元の小さな穴明きお玉で、そっと白子だけを掬って鍋用の取り皿に・・・芯が透き通る様に出汁を含んだ長ねぎをいくつかそえて・・・高梨さんの前に差し出しました。「よろしければ、ポン酢で召し上がってください。」
小さな青絵の片口には、さきほどこの晩秋に収穫したのだというたくさんの柚子を絞って贅沢につくったポン酢が入っていました。
「いただきます。・・・っあちっ・・・」
「ふふふ、そんなに慌てなくても。」
わたくしは、自分の器にも白子をとりわけ、鱈の身と長葱を添えてポン酢を垂らしたのです。棘のない丸い味のたれは、高梨さんが用意してくださった上質な鱈と白子にぴったりでした。
「いや、こんな贅沢な鍋はそうそう食べられるものじゃないな。」
おかわりの白子と鱈の身の器を受け取りながら、高梨さんがそうおっしゃいました。
「料理屋でも、鍋の一種だと思っているんだろうたらちり・ふぐちりだって結構雑多な食材が放り込まれているものだ。酷い店だと他の魚介が入っていたりしてね。淡白な魚そのものの味が楽しめなくなる。」
はふはふといただく白い身は鱈特有の香りと歯触りが、白子は柔らかなとろける様な甘さが舌の上を広がってゆきます。
「ほんとうに、旨いよ。」
4杯目のお代わりの器を差し出した高梨さんは、もう何杯目かの日本酒をふたりの切り子のロックグラスに注ぎます。
「たくさん召し上がってくださってうれしいわ。」
「これならいくらでも食べられそうだ。」
「あっ・・そうでした。」
お鍋と一緒に召し上がっていただこうと作ってあったものを思い出したのです。
キッチンの奥の冷蔵庫のガラスの器に、それは冷やしてありました。
「お口が火傷しないように、これもどうぞ。」
透明なクリスタルの器の中には、高梨さんがお出掛けする前に下ごしらえをしていたかきのもと・・食用菊・・が美しい紫色の花弁を横たえていたのです。
「あっ、さっきの菊だね。なんて言ったけ。」
「かきのもと、です。」
「ん、冷たくて旨い。ますます酒が進んでしまいそうだ。」
鱈を召し上がり、かきのもとに箸を伸ばし、手元のロックグラスの日本酒を煽る。
その高梨さんの姿はとても幸せそうでした。
お食事を初めて一時間半ほどで、お鍋も、おつまみの小鉢も全てきれいになくなってしまったのです。
「年越し蕎麦をゆでましょうか?それとも、なにか、小鉢でも出しますか?」
手際良くテーブルの上を片付け、洗い物を済ませたわたくしは、ロックグラスを前にものうげな高梨さんにそう声を掛けたのです。
二人でいただくには、充分な量のお食事でした。
でも、がっちりとした体格の高梨さんならもっと召し上がっても不思議ではないように思えたのです。
「いや、いいよ。これ以上飲んだら今夜祥子を抱けなくなりそうだ。」
「ふふふ、わかりました。それじゃもう一品、美味しいお酒のあてをお出ししましょう。」
「はははは・・・勘弁してくれ。ほんとうにもう腹一杯だ。きっと祥子のことだ蕎麦も美味しいと思うが、今夜はもういいな。ごちそうさま。」
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「これから作るのか?」引き寄せたお鍋の具の大皿を見て、高梨さんが不思議そうな顔をなさいます。
「ええ、お鍋はすぐにできますから、お大根でもきんぴらでも召し上がってらしてくださいな。」
「ああ、さっきからもう手を出しているよ。こんなに味の染みた美味しいふろふき大根はひさしぶりだ。鴨のローストも旨かった。ああして鬼おろしとポン酢で食べるのもいいもんだな。」
おっしゃる通りでした。健啖家といえばいいのでしょうか、高梨さんは眼の前のテーブルにならんだいくつもの小皿をつぎつぎと空けてゆきます。
男の方らしいぐいと手を伸ばす召し上がり方ですが、テーブルマナーはとても美しいものです。二人分を合い盛りにした器に添えられた料理は、きちんと取り箸で手元の小皿に受けられるのです。
スタイリッシュなのに、お食事する姿があまり上品ではない男性が増えているなかで、高梨さんの召し上がり方は本当に気持ちのいいものでした。
カシャ・・カシャ・・カシャ・・・ カシャ・・カシャ・・カシャ・・・
そして、お食事と同じくらいスムースにカメラにも手を伸ばされるのです。
繰り返されるシャッター音は、いつしかわたくしから<レンズ越しに見られる>緊張感を奪っていったのです。
鍋の火加減を少し弱めて、わたくしは鱈の切り身を大皿からひとつづつお鍋に入れてゆきます。身が白くなったところでアクを掬い、それからふっくらとした長ねぎを入れました。
昆布だけの出汁が、鱈や長ねぎのコクで益々美しい光沢を増してゆくのがわかります。
わたくしは、まだ手を付けていないグラスに半分だけ万寿を注いで、滋味豊かな日本酒を鍋肌から流し込みました。
「そうですね。鴨も野鳥の一種なのでどうしても肉の臭みが気になるらしくて赤ワインで煮たり治部煮のように濃い味にしてしまいがちなんです。でもご用意いただいていたのがとてもいいお肉でしたので、あっさりと召し上がっていただこうと思って作ってみましたの。」
「時々鴨を料理するが、自分でするといつもぱさぱさな味になってしまう。あんなにしっとり仕上げるのになにかコツでもあるんだろうか」
「それはね、待ってあげることなんです。火を入れてから半日・・・すくなくても3時間くらいは、抜け出した肉汁の中でゆっくりとお肉を休ませて上げるといいんですよ。」
「なるほどな。出来立てが旨いとは限らないわけだ。」
「ええ。」
日本酒で少し収まったお鍋が再び小さく沸騰を始めました。わたくしはもう一段火を弱めたのです。
「もうお鍋を召し上がりますか?」
「ああ、手を出していいなら食べたいが。」
「白子は火を通しすぎたら台無しですから。それじゃおつくりしますね。」
「ああ。」
ガラスの器に入れてある白子を一塊ずつスプーンでお鍋にそっと滑らせる様に入れてゆきます。
ひとつ・ふたつ・みっつ・・・・。
「しかし、こんなたらちりは初めて見る。」
「そうですか。」
「余分なものが何一つない。たらとだしの昆布、それに葱だけ。」
「ふふふ、寂しいですか。」
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カシャ・カシャ・・カシャ・・カシャ・・・高梨さんはいまはファインダーすら覗いてはいませんでした。
赤い切り子のロックグラスを口元に運ぶ瞬間も・・・今度はデジタルカメラが捉えていました。
温泉に温められて桜色になった指先が、グラスの表面の霜を溶かす瞬間まで、桜の日の散歩でわたくしのあられもない姿を写したのと同じカメラが捉えてゆきます。
カメラを意識するな、と言われてもとても無理でした。
カメラのレンズと、カメラを持つ高梨さんの視線と、そしてわたくし自身の姿態と・・・。
わたくしの意識は3つに引き裂かれていたのです。
「あん・・いゃん」
二人きりでした。広い1枚板のダイニングテーブルでしたが、他人行儀に向かい合うのではなく角を挟んだ左右に高梨さんとわたくしの席は作ってありました。
ロックグラスを持った右手はテーブルの上にお行儀良くしていましたが、リーチの長い高梨さんの左手は柔らかなロングスカートに覆われたヒップの丸みに触れたのです。
おっ・・という顔をされて、そのまま得心が行ったとでもいうように小さく頷きます。
「素足でも寒くはないだろうに。」
「お嫌ですか?」
高梨さんがおっしゃっているのはきっとガーターストッキングのことでしょう。
腰に走っていたサイドのストリングスが彼の指に触れたのです。
入浴をして、柔らかな素材のお洋服に着替えた時、わたくしはブラやガーターベルトといった類いのランジェリーを身につけるかどうかを少しだけ悩みました。
もうベッドに入るだけなら無粋なものは不要です。いつものレジデント棟の高梨さんのお部屋なら、お洋服の下にはスリップとパンティだけしか身につけなかったかもしれません。
でも、今夜お邪魔しているのは高梨さんのご自宅でした。
いつどんなお客様がいらっしゃるか・・・そしていまも窓の外からは、小屋の中の白雪がこちらをじっとうかがっているのです。
ふたりきりのお部屋に入るまでは、できるだけきちんとした姿でいるほうがいいと思い、外出するときと寸分違わぬランジェリーを身に着けたのです。
「いや、祥子のランジェリー姿は大好物だ。ふふ、今夜のデザートにとっておくか。」
「わたくしは献立の1つじゃありませんわ。」
「デザートじゃ気に入らないか、ん?それじゃ、この料理が前菜で祥子はメインディッシュって言う訳か。」
「もう。そんなことばかりおっしゃって。」
ゆっくりと3日間を過ごすというゆとりからでしょうか。
お逢いしてからの高梨さんは、性急にセクシャルな雰囲気になろうとはなさいません。いまも、言葉の応酬と指先の感触を楽しんでそれで満足なさってらっしゃるのです。
ぐぅぅぅ・・・
高梨さんのお腹が大きく鳴ります。
「早く喰わせろと、腹が文句を言ってる。これは祥子より先に眼の前のご馳走だな。」
「ええ、お鍋も煮立ちますから、そうなさってくださいな。」
カシャ・・カシャ・・カシャ・・・
わたくしは、掘りごたつ風になった足元から膝下を引き上げると、床の上に正座をいたしました。
少し腰を上げて、シュン・シュンと音を立てる土鍋の蓋をふきんを使って取り上げます。
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「あの、テーブルのお鍋の火を付けて下さいますか?」「ああ、わかった。」
お鍋には昆布が敷かれてそろそろ3時間。水出しのいいお出汁が出ているころでした。
わたくしは鍋の材料と、今日の薬味、ポン酢・・・それから鴨ロースト以外のおつまみをテーブルに並べました。
・・・ゆず味噌のふろふき大根、きんぴらごぼう、そして烏賊の塩辛。箸休めの聖護院大根の浅漬け。
「ご馳走だな。」
高梨さんの頬が緩みます。海外にいらっしゃる時は、その土地のものを食べるのが正解だ・・・と以前ご一緒した時におっしゃっていたことがありました。
日本にいる時は、日本のものを堪能していただきたい。
わたくしの腕が高梨さんのお好みに合えばいいと願うばかりです。
「いえ、ほんとうに手料理ばかりで。」
「いや、そういうのがいいのさ。ほら、とりあえず乾杯しよう。」
高梨さんは今夜はお酒の係をしてくださるようです。
赤い被せガラスの切り子のロックグラスにまあるい大きな氷を1つ。そこに久保田の万寿を注いでくださいます。ご自分は青いグラスに同じお酒を同じ様につくられて・・・でもまだ乾杯をするとはおっしゃいませんでした。
細身のクリスタルのタンブラーを2つ冷凍庫から出してらっしゃるのです。室温で霜が降ったように白くなったグラスには、細かい泡の立ち上るミネラルウォーターを注いでくださいました。
「このボトルって確かオーヴェルニュ地方のものでしたよね。」
シャンパンと見まごうほどの細かな泡。
ボトルに張られたラベルに燦然と輝く太陽王の印。
「シャテルドンを知っているとは通だね。この間パリコレの時にオーダーしておいたものがつい先日届いたんだよ。硬水だが、僕はこうして食事と一緒に楽しむのが好きでね。きちんと芯のある味の食事にはぴったりだと思っている。祥子さんは、どこで知ったんだい。」
「いえ、たまたま先日クライアントとお食事に行った先で、お水のソムリエさんに薦めていただいただけなんです。」
「ははは、これを用意できる店といえばクラスがわかるよ。よほどそのクライアントは祥子のことがお気に入りなんだね。」
「ふふふ、やっぱり高梨さんてグルメだわ。」
クライアントのことを詮索する方ではないとわかっていても、ついふっと・・・話題を逸らせてしまいます。
わたくしの声の調子に気付いたのでしょう。
それ以上は聞かないよ という意味を込めて、高梨さんは大きな声で笑って下さいました。
「ははははは・・・お世辞はいいさ。さっきから腹がぐぅぐぅ鳴ってるんだ。もうお預けなんて言わないでくれよ。」
「はい、それじゃ良い年を迎えられます様に・・・乾杯♪」
「乾杯。」
チン・・・日本酒のロックグラスを合わせる乾杯は、なんて高梨さんらしいのでしょう。
常温でも美味しい万寿が、氷で冷やされほんの少し溶け出した水で柔らかくなってわたくしの喉を滑り落ちてゆきました。
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「もう・・・高梨さんたら。」「ん、それとも一緒に入ろうか?」
「あん、だめですぅ。」
「ははは、僕は食事の後で酔い覚ましにゆっくり入るよ。大丈夫、覗いたりしないさ。行っておいで。」
「はい。あの宜しければ鴨の冷製が冷蔵庫にありますから、それをつまみにでもして飲んでいらしてください。」
「わかった。まっているから、さぁ。」
わたくしは追い立てられる様に、荷物の置いてある部屋から部屋着と新しいランジェリーのセットを持って、浴室に向かいました。
先ほど、ぞうきんを取りに立ち寄った時・・・ざぁ・・という水の流れる音が気にはなっていたのです。
ごく普通の洗面台のある脱衣所の先のごく普通の扉を開けると、その先に広がっていたのは、檜づくりの掛け流しのお風呂でした。広く取った窓からは、冴え冴えとした月が黒々とした夜空に星を散りばめた中に浮かんでおりました。
この辺りにも温泉が出るということは、ここに来るまでの道すがら高梨さんからうかがっていました。
でもまさかこんな個人のお宅にまで引かれているとは思ってもいなかったのです。
わたくしは、身体を清め・髪を洗うと・・・3人以上ゆったりと入れそうな浴槽に身体を沈めたのです。
広い洗い場・広い浴槽。
これももしかしたら白雪のためを考えたものなのかもしれません。
ざ・ざぁ・・・ お湯の温度が下がらない程度にゆったりと流れる温泉はわたくしの疲れを癒してくれるようでした。
出来れば、明日か明後日、時間を取ってゆっくりと浸からせていただこう・・・そう高梨さんがまだお休みになっている時間にでも・・・湯冷めをしないようにあたたまりながら、わたくしはそんなことを考えていたのです。
「祥子、起きているかい。」
扉の外の高梨さんの声に・・・うっかりすると、眠り込んでしまいそうな心地良さから、一気に目覚めました。
「あっ・・はい、ごめんなさい。いま参りますわ。」
どのくらいお待たせしてしまったのでしょう。
わたくしは慌てて身支度をして、リビングで氷を浮かべた冷酒を片手にテレビをご覧になっているだろう高梨さんの元へと戻りました。
でも、その予想は外れたのです。
「お姫様のお戻りだ。」
カシャ・・カシャ・・・・ 高梨さんは戯けるように口にしながら囲炉裏端に腰を下ろした低い視点からわたくしにシャッターを切り続けます。
「いいね。湯上がりの女は色っぽいと言うが、これなら待ったかいがある。」
「もう、堪忍してください。恥ずかしいわ。」
部屋の中は、先ほどよりもほんの少し暖かくなっておりました。
それは、囲炉裏に赤々と燃える炭のせいでした。
わたくしは急いで濡れた髪を黒のかんざしだけで夜会巻きにし、黒のタートルネックセーターにロングスカート・・・そして同じ素材のラインストーンが散りばめられたカーディガンを羽織っていたのです。
キッチンに向かっても止まらないシャッター音に、思わず左手で目元を隠したところで・・・高梨さんはカメラを置かれたのです。
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