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夢のかよひ路 30

望月さんはわたくしの前に回り込むと袖を通した長襦袢を一度さっと開け、改めて合わせてゆきました。
たゆんとしたGカップの白い乳房が、ちょっとした襟合わせの加減で寄せ合わされ、押しつぶされるのではなくコンパクトに襦袢の中に閉じ込められてゆきます。
キュ・・・ 伊達締めの締まる音がします。
望月さんの言葉をその時わたくしは実感いたしました。きつく閉じ込められた乳房の先端がガーゼに包まれてくっきりと立ち上がった陰を映しています。
皮膚が薄く感じやすい鴇色の昂りを、先ほど見せられた糊のきいた張りのある綿の素材でこすられ続けたら・・・もしかしたら傷つけてしまったかもしれなかったからです。

「ありがとう、悠哉さん。」
後ろに立つ望月さんの心遣いにそっとお礼を言いました。
彼には次に着せかけられた蜻蛉柄の着物に対するお礼に聞こえたかもしれません。
「いえ、この着物も祥子さんに着ていただけて本望でしょう。」
後ろ中心で襟を合わせ、かるくクリップで留めると望月さんは紐と伊達締めを手に前に戻ってらっしゃいます。先ほどと同じ白の紐は、着付けのためのものでした。
なのに・・・望月さんの手に紐様のものを見ると、期待と抗いにドキッとしてしまうわたしがおりました。先ほどの・・・括る・・・という脅しの言葉のせいでしょうか。
お着物の時は、わたくしは何もランジェリーを身に着けません。今夜は湯文字もなく絽とガーゼで作られた長襦袢だけがはしたないわたくしの身体を包むものでした。
付けているかいないかの肌着を汚してしまいかねない、いけない想像に身を浸してしまうことがないように・・・と。わたくしは自らの心を戒める様に下唇を噛んだのです。
「どこか苦しかったですか?」
着付けをしながらわたくしの表情を見あげた望月さんが、そう質問をなさいました。黙ったままの望月さんが側にいるということだけで、感じてしまった快感を押しとどめる表情はそんなに苦しそうに見えたのでしょうか。
「いいえ、大丈夫よ。」
腰骨の位置で裾を整えた紐をしばり、襟元をきゅっと引き締めます。大きく開けた襟足ときっちりと閉められた襟元のコントラストは、ただの木綿の一重を粋な装いへ変えてゆきました。

箱根の時と同じ様に、袋帯よりは少し低い位置で伊達締めを締めてゆきます。
ぴたっと決められた襟元は、さきほどまでのレースのドレスの開放感とは一線を画す、凛とした風情を感じさせたのです。
半分に折られた帯の手が、後ろに立つ望月さんから渡されました。裏が銀・表が黒地にほおずきの柄の半幅帯です。
するすると二巻きし、キュっと締めるとわたくしから手を受け取るのです。
ぽん・・と叩かれた場所には、綺麗な貝の口が結ばれていました。

「こちらにお掛けになってください」
ソファーにわたくしを腰掛けさせると、望月さんは明かりを点けにいったのです。
ふっ・ふっ 2つの蝋燭を吹き消します。
着付け終わるまで、時間にして15分足らず。その間に、アロマキャンドルは室内を優しい香りで満たしていました。
「苦しくないですか?」
わたくしの着ていたものを乱れ箱にまとめ、ハンガーに掛けて望月さんが戻ってきました。ブラシと黒のリボンがその手にありました。
「髪をまとめさせていただきます。」
そのままソファーの後ろに立った彼は、わたくしの髪をブラッシングし、左側にまとめるとざっくりと三つ編みをしたのです。束になった毛先をゴムでまとめリボンを飾ると、首筋から反対の耳元まで4カ所ほどヘアピンで留めたのです。
「痛いところはないですか?」
「大丈夫よ。」
振り返る事なくソファーの背から差し出された鏡を受け取りました。
手渡された鏡には右の耳元からグログランのリボンをコサージュのように垂らした、シンプルなアップスタイルが出来上がっていました。

夢のかよひ路 29

「あん・・・ね、着替える前にシャワーを浴びさせて。」
彼の手が触れた髪に、穏やかだったとはいえ海風に当たったままの身体が・・・気になったのです。
着せていただくのは着物です。お洋服と違ってそう簡単にお洗濯できるものではないのですから。
「だめです。それに祥子さんにシャワーなんていりません。祥子さんのことです、今夜も出掛けに清めてらっしゃるはずです。」
「だって、お着物。」
「いいんです。これ以上僕を焦らすと怒りますよ。」
ジィィィィ・・・・っ ファスナーが一気に下げられてゆきました。
パサァ・・・・ 肩を落とされたワンピースがまるで花びらのように足許に落ちてゆきます。肩に留められたままのアンダードレスも一緒に落とされてしまったのです。
わたくしの夏でさえ真っ白なままの身体には、黒のレースに散りばめられたゴールドの糸が揺れる蝋燭の明かりに煌めくランジェリーだけが残されたのです。ブラとハイレグパンティとガーターベルトに留められた極薄の黒のストッキング。
ほぉぅっ・・・ ワンピースを拾い上げた望月さんの嘆息が小さく背中に聞こえたのです。

望月さんは、それでもわたくしの身体を回して、ランジェリー姿を鑑賞しようとはなさいませんでした。もう一度ストレートロングの髪を手に取ると、わたくしの左の肩にまとめて預け、ブラのホックを外したのです。
「やん・・・」
思わず落ちかかるレースを手で抑えます。
「素直になさらないと、お時間がかかるばかりですよ。」
聞こえてきた彼の声は、やはり背後からでした。
わたくしは抑えていた腕を下ろし、レースの重みに両腕からブラが落ちるに任せたのです。
次いで望月さんの手が掛かったのは、ハイレグのパンティでした。ウエストのレースを掴むと一気に足許まで引き下ろします。
「脚を上げてください。」
腰の丸みに息がかかるほどの位置から聞こえる望月さんの声に、わたくしは小さく右足と左足を上げました。
プチっ・・・ ウエストに巻かれたガーターベルトのスナップが外されます。
いつもなら、わたくしの前にまわって左右の留め具から順に片脚づつ脱がしてゆかれる望月さんが、今夜は羽を広げたコウモリのようなガーターベルトごとストッキングを下ろしてゆかれるのです。
それだけでも、わたくしの羞恥に満ちたストリップティーズを楽しむのが目的でないことはあきらかでした。
「もう一度、脚を上げてください。」
ゆるゆると落ちてゆくストッキングを彼の手が、片脚ずつ脱がせてゆきます。

「これに袖を通してください。」
ふわ・・・と掛けられたのは、絽の襟の付いたガーゼの長襦袢でした。
望月さんはここまでの間、一度としてわたくしの前にまわってらっしゃることはありませんでした。セクシュアルな悪戯も、一度もなさらなかったのです。
ずっと後に立って、わたくしから脱がせたものを手元で整えながら脱衣のお手伝いをしてくださっていただけでした。彼は、祇園の男衆さんのようにわたくしを装わせることだけしか今は考えていらっしゃらないようでした。
「はい」
わたくしははじめて見る長襦袢に手を通したのです。
肌襦袢でガーゼのものは目にします。がウエストから下と袖を絽の素材に、上半身にあたる部分をガーゼにしたものははじめてでした。
「これは?」
「この着物を素肌に着て頂いてもいいのですが、祥子さんの肌には酷だと思いましたので作ってみました。」
「柔らかくて気持ちがいいわ。」
「そう言っていただけてほっとしました。」
前にまわった望月さんの手には、白の伊達締めが握られていました。

夢のかよひ路 28

「浴衣なの?」
「ええ。」
「ドライブに?」
「そうです。ちゃんと座りやすい帯の形に結びますし、万が一着崩れても僕がち直してさし上げます。」
白地に浅葱で染め抜かれた蜻蛉の柄がすゞやかな着物でした。合わせる半幅帯は黒地にほおずきの朱と緑が鮮やかに映えています。
浴衣というよりは一重の着物と言った方が似合いなほどに、一般的な小紋などと変わらない格を持った品であることは一目瞭然でした。
どこに出掛けるにしても、黒のレースのパーティドレスではいまの望月さんには不釣り合いでしょう。
用意されているのがこの着物なら、着替えるしかありません。
「わかりました。望月さんの寝室をお借りしてもいいですか?」
もう、21時をまわっておりました。
ドライブにゆくならあまり遅くならないほうがいいでしょう。
帯は彼に任せるにしても、ドレスから着物に着替えるところを彼には見られたくありませんでした。

「だめです。ここで着替えていただきます。さぁ、立って。」
「いやぁ・・・」
煌々と明かりの灯るこの部屋で、彼の眼の前で着替えろとでも言うのでしょうか。
「お願い、ここでなんて恥ずかしいわ。」
「見せてください。石塚様がどんなことをなさったのか、その痕跡くらい確認させていただきます。」
「何も、ないわ。」
「何もですか。本当に?」
「だったら、余計に構わないじゃないですか。素直に僕にその身体を任せてください。」
「だめ・・・」
「逃げないように括らないと、僕のいうことを聞いてくれませんか?」
押し問答でした。
望月さんだって、石塚さんから今夜わたくしを招待したのが会社主催のパーティだと聞いていたはずです。
たとえどんな理由だったとしても、わたくしを呼び寄せて指一本触れないでいることはない。石塚さんをよくご存知の望月さんなら、当然のようにお考えになったことかもしれません。でも、その疑惑と嫉妬は先ほどのキスで帳消しになったとばかり思っていました。
いえ、そう思っていたのはわたしだけだったようでした。
これ以上逆らえば、せっかくの石塚さんの最後の忍耐やわたくしの気遣いが無駄になってしまいます。
「お願い、明かりを落としてちょうだい。」
わたくしは、それだけを眼の前の素敵な若い男性にお願いしたのです。

「わかりました。」
わたくしが、身体の力を抜いたのを感じたのでしょう。
腕を掴んでいた望月さんの手の力が緩みました。
「ちょっと待っていてください。」
望月さんが向かったのは、テレビの隣で咲いている青紫の鉄線の下の棚でした。
そこからなにかを出すと、鉄線の鉢の側とローテーブルに置いたのです。薄紫の蝋燭でした。彼の大きな手の中に握り込まれたもう一つのものは、マッチのようでした。
シュッ・・・・ ぽゎと灯った2つの明かりからは、優しいラベンダーの香りがただよいはじめました。
「ハーブキャンドルね。」
振り向いたわたくしからは、キッチンからの逆光にシルエットになった望月さんが見えました。
「これならいいですか?」
「ん・・恥ずかしいけど、許してはくれないのでしょう。」
半年前の時には、彼の前でプレゼントされたランジェリーに着替えることに羞恥するわたくしを、最後にはさりげなく1人にしてくれたのです。
なのに今回はここまでするのです。
許していただくのは、無理のようでした。
「ええ、さぁ着替えましょう。」
わたくしの後に立った望月さんは、潮風になぶられていた髪を片手にまとめ、ファスナーに手をかけたのです。

閑話休題(インターミッション) 11-2

紅葉のたよりがあちこちから聞こえる季節となりました。皆様はいかがお過ごしでしょうか?
<夢のかよひ路>の途中ですが、このお話のパートナー望月さんのキスに端を発して実施することになりましたアンケートの結果を発表させていただきます。ちょうど、雪の別荘からの帰路の回想が終わったところです。花火の後のナイトドライブへ向かう前に、少しだけ寄り道していってくださいませ。

<男性限定>キスしたくなる瞬間を教えてください

投票期間は、10月13日からの15日間でした。男性限定にさせていただいたにも関わらず、69票もの投票をいただきました。ありがとうございます。
12の選択肢から1つ選んでいただくという事で、今回も0票のものがあるかと思いきや・・・全てのキスしたくなる瞬間に票を頂戴いたしました。
今回はわたくしの私的なコメントと、<淑やか>の中で近いイメージのキスシーンをご紹介させていただくことにいたします。


第一位  彼女が泣いている時 13票
なんと、第一位は『泣いているとき』でした。
可愛そうになってつい・・・なのか、泣き止ませるための最終手段なのか(笑)。約20%の得票数ですから、この秘技を駆使している男性は意外と多いのかもしれません。
それとも・・・もしかしてご自身で泣かせることまで想定内なんて酷い方はいらっしゃいませんよね。

銀幕の向こう側11
泣きじゃくるわたくしにキスをした男性といって一番最初に思い浮かんだのが、<銀幕>の仲畑さんでした。でも最初のキスは・・・わたくしからしているのですね。いま思えばなんてはしたないことしてしまったのでしょう。
泣いているという昂った感情の時のキスは、とても優しく頼もしかったのを覚えています。


第二位 彼女が哀しそうな時 12票
『哀しそうなとき』が第二位でした。
<淑やか>にお越しになっている男性の皆様は、とにかく女性が泣いたり・哀しそうにしていたりと辛そうな時にキスをしてくださる方達なのだと納得いたしました。でも、出来れば『哀しそう』になる前にキスで幸せにしていただけると・・・女性としては嬉しいのですけれどね。

初雪 1
望月さんがご招待カードに書かれていた時間にわたくしを迎えに来てくださったとき、その半日前に高梨さんと過ごして別れたばかりのわたくしは・・・少し窶れていたのかもしれません。美貴さん達が待ってらっしゃるホテルの部屋へ向かう直通エレベーターの中で、少し不安そうにしているわたくしに望月さんはキスをしてくださったのです。
どうも・・・わたくしには哀しそうな時があまりないようです。
なかなかシーンを思いつかずに唯一気がついたのがこの初雪のシーンでした。


第三位 彼女が拗ねている時 11票
彼女の気持ちを宥めるキスの第三弾!『拗ねている時』が第三位になりました。
言い訳も出来なくて、口も聞いてくれなくなって、でも絶対彼女に何か言いたい事があるに違いない時・・・男性の皆様はまず話すのではなくて、唇を塞ぐのですね♪

夢のかよひ路 9
「今度<様>を付けて呼んだりしたら、帰っちゃうから。」そう言って拗ねてみせたわたくしの唇を奪ったのは望月さんでした。大人の女としてあまり拗ねるという行為をしないわたくしにも、こんなキスの瞬間があったのですね。
そう言えばこのキスが、このアンケートの発端だったように思えます。


第四位 彼女が欲情している時 9票
実は、アンケートを開始した当初ダントツに票を集めていたのが、この『欲情している時』だったのです。
ということは、キスはセックスの前菜?だと決めている男性ばかりなのかしらん・・・などと勝手に不安がっておりましたが(笑)、こちらのブログのアンケートらしく順当なランクに落ち着いたようです。
好きな女性に欲情して潤んだ瞳で見上げられて、キスを我慢するなんてそんな野暮な方は嫌いです♪(笑)

初雪 19
「だめです。祥子さん、僕を見て。シェフに嬲られて逝く表情を全て僕に晒して下さい。祥子さんの逝き顔が見たいんです」
大晦日のホテルのメインダイニング。営業時間後の客席でわたくしはシェフに犯されながら美貴さんにその表情を見つめられ・・・最後には唇を奪われるのです。
欲情というよりも、官能に蕩け切ったわたくしの表情を美貴さんは堪能してくださったのでしょうか?


第五位 彼女とセックスしたくなった時 5票
第五位 その他 5票
もうそのものズバリの『セックスしたくなった時』がなんと5位でした。
愛して上げたい・・・って気持ちをダイレクトに表現するためのキスは、親しみ合った恋人同士ならではのキスしたくなる瞬間なのかもしれないですね。

ジューンブライド 31
「ねえさん」と呼ぶ森本さんの声に振り向いたわたくしは、とうとう舌も・・唾液も・・・喘ぐ声さえも全て奪い尽くすような・・淫らな口づけをされてしまったのです。「ねえさんは、僕が嫌い?」 という彼の欲情に、わたくしは弟だと思っていた男性と身体を重ねてしまうのです。


『その他』にも5票頂戴いたしました。
いただいたコメントからご紹介いたしますと・・・
「女性から熱い眼差しで見つめられたとき。ふと、その女性を見たときその瞳で身じろぎもせずじっと見つめられたら、思わず抱き寄せて、キスをしたくなります。」
女性からのアピールを感じた時、それに応えるためには言葉ではなくキス♪粋な方ですね。
「KISSは始まりと終わりの合図。そこに必ずしも抱擁や挿入が必要とは限らないと思うのですが。二人の距離が近づいた時、したくなりますね。KISS!」
挨拶のキスほど軽くはないけれど、いつでもどんなときでもさらっと大人のキスを綺麗にしてくださる男性をイメージしてしまいます。そうですね、<淑やか>の男性キャラだと山崎さんみたいな方なのでしょうか。
「彼女を縛り終えた時。きっちり縛って、さてキスでスタートです。」
調教をキスで始める。そんな方のお話を伺った事があります。縄を打った女性に愛おしげに与えるご主人様のキス。危な絵にはない・・・淫媚な魅力に溢れた一瞬ですね。

うたかたの夢 4
ということで、わたくしが選んだのは<不埒なキス>です。
地下鉄で二人の男性にパンティを身につけていない事を知られ、痴漢行為をされてしまうのです。そのうちの一人にわたくしは込み合った電車の連結部に連れ込まれ、素股という行為をされながら唇を奪われてしまうのです。声を殺すためだけに・・・。


第六位 彼女が怒っている時 4票
六位は『怒っている時』。
もうこれも明らかに宥めて機嫌を取るための手段になってますね。それよりも、実は「ごめんなさい」の代わりなのかしら?

過ぎし日の残り香2
わたくしは、あまり怒ったりはしない方なのです。それでも元の上司の隠し撮りしたあられもない写真を見せられたときは、とても怒っていたのです。そのわたくしの唇を風間さんは貪欲に奪ったのです。
でも、キスではわたくしの怒りは収まりませんでした。席を立ったわたくしは・・・


第七位 彼女が笑っている時 3票
ようやくハッピーなシーンでキスをしたくなってくださる男性に出逢えたような気持ちです。女性は、好きな方の隣で微笑んでいる時でもキスを望んでいたりするのですけれどね♪

Fireworks 9
わたくしが他の男性のことを思って浮かべている笑みに、石塚さんは嫉妬をしてキスをなさるのです。いまここにいるのは、あの男ではない僕なんだよと。でもこのキスは、まだ今夜のプロローグでしかありませんでした。
ふふふ、女性の笑顔に嫉妬をかき立てられる男性もいらっしゃるのですね♪


第八位 彼女が喜んでいる時 2票
第八位 彼女に久しぶりに逢った時 2票
第八位 彼女は関係なく単に自分がしたい時 2票
同率八位で3つのキスしたくなる時が並びました。

『喜んでいる時』。これはもう「僕もうれしいよ♪」の代わりのキスなのでしょうか?それとも「喜ばせて上げたご褒美で・・・いいよね」のキスでしょうか。

蛍火 8
蒸し暑い夏の庭園。蛍がうつくしい庭で喜び・はしゃぐわたくしを見た田口さんは、髪に止まった蛍を口実に、わたくしの唇を奪うのです。


『久しぶりに逢った時』。実はわたくしはこれがもう少し上位なのかと思っておりました。これは「いつも逢ってるから」なのか「久しぶりに逢ったらキスよりも先にしなくちゃいけないことがあるだろ!」なのか(笑)。
ところが<淑やか>には『久しぶりに逢った時』のキスシーンは意外に多いのですよ♪

第九 合唱付き 1
夜の美術館で出逢ってから連絡先を教えていたにもかかわらず、連絡してこなかったわたくしを年末のコンサートホールで見つけた高梨さんは、誰がみているかわからないロビーでわたくしにシャンパンの香りのキスをしたのです。
「だめ・・・こんなところで・・」「今夜は最後まで味合わせてくれるね」「だって・・・あなたはお仕事が・・・あん・・・やぁ・・」
わたくしはとうとうその夜を高梨さんと過ごすことを約束してしまったのです。

唐紅 10
オペラピンクのランジェリーを着て出かけた夜からもう随分たってから、バーへ立ち寄ったわたくしを望月さんと美貴さんが迎えに来て・・・箱根の宿まで。
まだ名前すら存じ上げない美貴さんとの久方ぶりのキスは、わたくしの身体を確かめようとするようなキスでした。


『自分がしたい時』。彼女がどうあれ・・・と身勝手に見えながら、実は一番正直なお答えかもしれません。女性も、男性がどう思っているかは別にしてキスしたくなる時ありますもの♪

ムーンナイト・アフェア 17
「祥子を手に入れるためなら他の女達は全て整理する。僕のものにならないか、祥子」
真性の快楽系Sだとおっしゃる長谷川さんは、激しい責めの狭間でわたくしに想いもよらないことをおっしゃったのです。わたくしは、その言葉に頷くわけにはまいりませんでした。真情を語るわたくしに、長谷川さんは、責めではないはじめての貪るようなキスをなさったのです。


第九位 彼女からキスをねだられた時 1票
女性の皆様・・・男性ってキスをおねだりしても、して上げたいって気持ちにはならないみたいなんですよ。
と改めて実感させられた『キスをねだられた時』が最下位でした。
だって、してくださらないんですもの。せめて、おねだりした時くらい気持ちを察してキスしてくださいな♪

桜陰 14
「どうか、もうわたくしをお赦しください、ご主人様」
桜並木を3本の桜毎にキスをして、下にスリップだけしか身につけていないコートの釦を一つずつ外してゆく・・・という高梨さんとのゲームに、わたくしは全てを耐える事が出来ずに哀願するのです。
その答えは、身体を犯すのではなく心を奪うような・・・キスでした。

初雪46
このシーンは、わたくしがおねだりしたというよりは、望月さんにねだられたキスだったのですね。もう半年も前のお話・・・わたくしの中ではちょうど逆・・・わたくしがおねだりしたのだとばかり思っておりました。


結果発表は以上です。
女性の皆様いかがでしたか?ぜひご感想を聞かせてくださいませ。
ピックアップいたしました<淑やか>のキスシーンもお楽しみいただけましたでしょうか。もっと、たくさんのキスを男性の方達からは頂戴しているのですが・・・ん、全員の方の唇の感触を思い出してしまいましたわ。

また明日から<夢のかよひ路>を再開いたします。
真夏の夜のドライブ。行き先は秘密なのですが、いったい望月さんはわたくしをどこへ連れて行こうというのでしょうか?
ぜひ、またお越し下さいませ。皆様のお出でをお待ちしております。

夢のかよひ路 27

「やっぱり祥子さんには、華が似合う。ドレスならモノトーンがお似合いですが、着物だとモダンで構築的な若い作家の作品では祥子さんに格負けしてしまうんですね。この絵画のような豪奢な柄を、きっと上品に着こなしていただけるでしょう。」
「もう、お世辞でも目の肥えた望月さんにそう言っていただけてうれしいわ。でも、こんなに高価なものばかり、いつも・・・申し訳なくて。」
「そんなこと、気にしないでください。これは祥子さんの時間を予約するためのチケットなんですから。」
「えっ・・」
「気が咎めるのなら、この着物を着て僕とデートをしてください。いいですね。」
「あん・・・」
立ち上がった望月さんは、わたくしの顎をついと持ち上げると素早く唇を奪ったのです。
ローテーブルに用意されたアイス・ティーに冷やされた彼の唇は、半年前と同じアールグレイの香りに満ちていました。
またしても、わたくしをデジャヴュが襲うのです。半年前のあの日からずっと、望月さんの腕の中で愛され抱きしめられ続けてきたようでした。
「返事は?」
つかの間離れた望月さんの唇から掠れた声がいたします。
「ゆうや・・さん・の言うとおりに・・する・わ」
しょうこ・・さ・・・ 今度は激しく・唇も・・身体も・・・望月さんに貪られます。ディープキスは舌の絡まる音でわたくしの理性を蕩けさせ、彼の手はつい1時間前まで石塚さんに嬲られていた白い肌の記憶を蘇らせるのです。
「はぁ・・ぁ・ん・・」
「祥子さんとシャンパンの香りで酔ってしまいそうだ。」
望月さんは、広く大きな胸にわたくしを抱きとめてそうおっしゃるのです。そして・・・
「僕の名前を憶えていてくれたんですね。」
「ええ、忘れたりしないわ。」
「よかった。」
悠哉さん・・・1月3日のベッドの中で、わたくしを責め立てながら教えてくれた望月さんの名前でした。快感とともに刷り込まれた名前は、口にする度に、わたくしを疼かせたのです。
「氷が溶けてしまうまえに、アイス・ティーで酔いを覚ましてください。」
わたくしを腕の中から解き放つと、ソファーに座らせてくれたのです。
「一休みしたら、出掛ける支度をしましょう。」

喉を滑り落ちる香り高い液体は、わたくしに平静を取り戻させました。
いつもはストレートなのに、今夜は少し甘くて、そのこともほっと和ませる要因の1つでした。
「美味しいわ。ねぇ、どこに行くの?」
隣に座る望月さんを振り返ったのです。ずっとこちらを見つめていたらしい視線にダイレクトにぶつかって・・・わたくしはドキッとしたのです。
「祥子さんがいらっしゃりたい場所はありますか?」
じっと、優しく熱の籠った瞳でわたくしを見つめて真顔で質問を返すのです。
ここで行き先を言えばそこに連れて行ってくれるとでも言うのでしょうか。いえ、そんなことはもうこの時間では無理でしょう。今夜から、明日の予定はきっともう組まれているのです。
「もう、素直に教えてください。」
「ははは、行き先は内緒です。明日の夜までにはご自宅にお送りします。安心してください。そして、今夜着替えていただくのはこちらです。」
彼が差し出したのは、きちんと仕立てられた綿の一重でした。

夢のかよひ路 26

望月さんのお部屋は、半年前の記憶のままでした。
地下の駐車場にセルシオを停めて、エレベーターで8階へ。
<806/Y.MOCHIZUKI>の扉を開ける望月さんの姿まで、まるでデジャヴュを見ているようでした。
「どうぞ、お上がり下さい。」
先に上がった彼が差し出したのは、上質な麻で織られたスリッパだったのです。
いまが夏の盛りだと・・・先ほどまでの甘美な夢想が過去のことだと・・・一揃いの履物が教えてくれました。
「ありがとう。」
お正月と違って今夜はエナメルのバックストラップパンプスです。脚を軽く上げて、踵のストラップを落とすとわたくしは玄関を上がり、改めてパンプスと望月さんのローファーの向きを整えました。
「すみません。脱ぎっぱなしで。」
「いいえ。」
わたくしを玄関に早く入れて下さるためでした。望月さんは慌てて上がったとはいえ、脱いだローファーは玄関にきちんと揃えられていたのですから。
改めてきちんと躾けられた方なのだと、望月さんの振る舞いには感心してしまいます。
「飲み物は冷たい方がいいですか?」
「ええ、ありがとうございます。でも、その前にお化粧室貸してくださいな。」
「わかりました。リビングで飲み物を用意して待ってます。」
少しだけ振り向いて、望月さんは正面のドアに入ってゆきました。

花火帰りの人で渋滞した道筋は、思ったよりも時間がかかっておりました。
シンフォニーの中でいただいた飲み物のせいもあって・・・そして半年前のこの部屋での出来事の想い出がわたくしの身体を高ぶらせていたこともあって・・・お行儀が悪いのですが着く早々に化粧室をお借りしたのです。
それに、もう一つ理由がありました。
石塚さんの痕跡をきちんと消しておきたかったからです。
今夜の望月さんは、落ち着いた優しい風情を漂わせておりました。
だからといって、このまま紳士的でい続けてくださるとは限りません。
なぜなら、望月さんはこんな姿のわたくしを前にした石塚さんが全くなにもせずに帰してくれる方ではないことを、一番ご存知だったからです。
たとえなにが有った後でも、彼がもしわたくしを望んだ時に、せめて他の男性の痕跡だけは感じさせたくありませんでした。
化粧室で用をたした後、わたくしは改めてストッキングを留め直し、ハイレグのパンティから零れた白いヒップを軽く濡らしたハンカチで拭いました。
シンフォニーの特別客室で慌てて身に着けたランジェリーを、改めてからリビングへと向かったのです。

「ごめんなさい。お待たせしました。」
ソファーに座る望月さんに声を掛けようとした時です。
振り返った彼の向こうに、<春>と<雨>の景色が広がっていることに気付いたのです。
「す・てき・・・ね。」
半年前に、紅葉を織り出した白大島が掛かっていた衣桁には桜の友禅がありました。薄紫から濃紅までの淡いグラデーションと若葉の萌黄が大胆にせめぎあう、京の西山の景色のようでした。
もう一枚は突き当たりの壁に、雨を思わせる薄水色と白の縞にすっと立つ菖蒲を描いた絽の附け下げでした。
それぞれの足許の乱れ箱には、帯から長襦袢まで・・・絽の着物にはそれに合わせた雨コートまで用意されておりました。

「気に入っていただけましたか?」
「ええ、とっても。でも・・・」
春の桜の季節・梅雨のあやめの季節にわたくしはこの方達とお逢いする約束をしてはおりませんでした。お正月に見せられた大島とは訳が違うのです。
「祥子さんに逢えるチャンスは滅多にありませんから、お逢い出来たら着ていただきたいと思ってご用意しておいたんです。」
「それにしても・・・」
あまりに高価なものでした。華美などではなく、上質が故の美しさがそこにはありました。ここにある和服の数々は・・・襦袢に掛けられた半襟までも銀座のママさえ垂涎ものな格のものに違いありません。

夢のかよひ路 25

「ごめん・なさ・・い。」
はじめて美貴さん達と出逢ったあの夜、わたくしが気まぐれにあのバーに行ったりしなければ、この優しい男性をいまこんな風に苦しめることはなかったのですから。
「なんで謝ったりするんですか?」
「ごめんな・さい・・ぃ・・ぁあぁぁ・・」
わたくしの中でじっとしていた望月さんの塊が・・また激しく花びらの奥を責め立てはじめたのです。
「早くあなたを、堂々とあの3人から奪えるほどに、なりたい。なってみせる。」
「ああぁん・・・ゆぅゃぁぁぁ・・・・」
幾度も達したわたくしの身体が、理性を蕩けさせる快感を思い出すのにさほどの時間は必要ありませんでした。
「僕だけのものにしたい。」
深く・浅く・深く・・もっと深く・・・
望月さんが言葉を吐出すたびに大きさを増す塊は、わたくしの身体を・・・彼を受け入れるためだけのものに変えてゆくのです。蜜壷を望月さんの塊の形に抉ってゆく様に激しく突き上げ続けたのです。
「はぁぁぁ・・だめぇぇぇ・・・ゆうぅぅやぁぁぁ・・・」
「待っていてください。きっと迎えにゆく・・しょう・こぉぉ・・・あぁ逝く・・ぅっ」
「いっちゃうぅぅぅぅ」
とぷっ・・・熱いねっとりとした質感がわたくしの胎内を満たしてゆくのがわかりました。とても・とても・・たくさん。
「ああ・・っ」
全ての力を使い果たした望月さんの身体が・・わたくしの上に被いかぶさったのです。激しい鼓動は・・・わたくしの乳房の向こうの鼓動と重なり・・・美しいリズムを奏でたのです。




「祥子さん」
「なぁに?」
わたくしは、望月さんの呼びかけで過去の想い出から呼び戻されたのです。
わたくしがいま座っているのはセルシオのリアシートで、眼の前に広がっているのは・・・午後の明るい日差しに満ちた望月さんの部屋ではなくて・・・真夏の都内の夜景でした。

「明日はお休みですか?」
「ふふふ そうよ。」
「何か予定はありますか?」
こんな質問をしてくれるということは、望月さんが何かを計画してくれている証拠です。
いつものお仕事の装いではなかったから、もしかしたら・・とは思っていました。でも本当に誘って頂けるかどうかはfifty & fiftyだったのです。
「いいえ、何も予定をしてなかったから、お仕事でも少しこなしておこうかとおもっていたの。」
「よかった。夜のドライブをしませんか?ちょっとだけ遠くに。」
「素敵ね。でもわたくしこんな格好なの、それに遠出をする支度なんてなにもしてこなかったわ。」
石塚さんに誘われたシンフォニーでの東京湾クルーズパーティに相応しい黒のドレス姿なのです。シンプルなものとはいえ、あきらかにパーティ仕様の靴もバッグも、望月さんのいまの姿にはそぐわないものでした。
「大丈夫です。任せてください。それじゃ、僕の自宅に寄りますね。」
いつも、ご自分のことを<私>という望月さんが、<僕>とおっしゃる時は1人の男性としてリラックスしてわたくしと接してくださっている時なのです。
「ええ、ありがとうございます。」
声の調子と口調で、望月さんが喜んでらっしゃるのがわかりました。

カチ・カチ・・ 渋滞から抜け出したところで、望月さんが左にウインカーを上げました。御殿山の彼の部屋までここからならあと15分ほどです。

夢のかよひ路 24

「あぁ・・ゆうや・・だめぇぇぇ」
振り落とされない様にわたくしは望月さんの首筋に手を回し・・・彼の口元に・・・真っ白くたゆんと揺れる乳房を・・くっきりと立ち上がった鴇色の乳首を差し出して・・・耐えるしかなかったのです。
「逃げちゃだめです。」
望月さんの腕が、彼の抽送から逃れようと浮き上がるわたくしの肩をぐいと押し下げ、揺れることがけしからんとでも言う様に・・・ひときわ大きく立ち上がってしまった左の乳首をきつく吸い立てるのです。
「いぃぃぃ・・・あたるのぉ・・・ゆ・うや・の・がぁぁ・・・おくまで・い・っぱぁぁいぃぃぃ」
「そう、もっとですか?」
再度・・下からの突き上げが繰り返されたのです。今度は逃げ場もなく・・・深く子宮にめり込むほどに・・・。
「ゆうやぁぁぁ・・・いくぅぅぅぅ・・・」
わたくしは、暖房が効いているとはいえ一月の午後のベッドの上で、腰にまとわりつかせたスリップを・・Tバックのパンティを・・・自らの汗でべっとりと貼り付かせて・・・望月さんの肩に・・落ちていったのです。

「逝きましたか?」
激しい腰の動きに、望月さんの息も荒くなっておりました。
なのに・・わたくしの中の塊は、まだ昂ったままでした。
逝き果てて・・・締め付けるわたくしの蜜壷から押し出されることもなく・・・まるでそもそも1つのものだったのを無理に引き裂いたとでもいうように・・・ぴったりと納められておりました。
「ごめんな・さい・・わたくし・ばっか・り・・」
はぁはぁ・・と喘ぐほどに、わたくしは上り詰め続けさせられてしまいました。対面座位で割り広げられたTバックを付けたままの無毛の丘に、望月さんは茂みをめり込ませるようにこすりつけるのです。全く愛撫を受けていないのに、わたくしの真珠は、ぷっくりと敏感に姿を表して・・・彼の無意識の行為にさえ快感をむさぼってしまうのです。

ぴく・ん・・ わたくしの身体はその刺激に耐えることもできず、淫らな慄きを全身に走らせてしまいました。
「いいんです。こんなに何度も祥子さんに感じてもらえて嬉しいんです。」
引き寄せたベッドかバーで、冷えてゆくわたくしの背中の汗を望月さんは優しく拭ってくれます。
「でも・・・あんっ・・す・ごいのぉ・・」
ぴったりと抱き合ったままで腰を動かすこともなく・・ひくひくと腹筋を使って、蜜壷の中の塊をひくつかせます。
確かに、望月さんはいつもギリギリまで耐えてくださいます。必ず、わたくしを淫楽に溺れさせてからしか逝ってくださいません。それにしても・・・
「実は高坂SAで一度、自分でしてきたんです。そうじゃなかったら、こんなに耐えられません。」
「えっ・・・」
「バックミラーに映る祥子さんの寝姿が可愛くて、漂うあなたのフェロモンに我慢できなくて。僕の誘いに乗ってもらえるかどうかも自信がなかったから・・・してしまいました。」
ぐぅぅっ・・・ SAで自慰を・・・男性にとっても恥ずかしいはずの告白をしながら、望月さんの塊はさきほどよりもまた一回り容積を高めたのです。
「それでも、ボクサーパンツをあんなに濡らすほどに昂ってしまうんです。あなたと居ると。」
「ぁん・・」
欲望が・・・彼の身内をどれほど激しく駆け抜けるものなのかをわたくしの胎内にありありと示しながら、逝ってしまったわたくしをいたわる様にそれを感じさせない優しい口づけを下さいます。
「祥子さんが悪いんじゃないんです。わかってます、僕もふくめたあの方達を同時に受け止めてくれるのは祥子さんが優しいからだって。こんな風に、僕と二人きりで愛し合って・・・何度も何度も逝ってくれる祥子さんを、淫乱な娼婦のようにさせてしまうのは僕たちがいけないんです。」
望月さんはわたくしの腕を彼の首筋から解くと、またゆっくりと上体を仰向けに横たえてくださったのです。欲情と思慕の間で理性を保とうとする望月さんを一瞬でも疑ったことを後悔いたしました。

夢のかよひ路 23

「逝ってください。もっと!」
再び望月さんの力強い抽送が始まりました。今度はわたくしのシルクのストッキングに覆われた脚を両手に抱え込むようにして。
「はぁぁ・・ん・・ふか・いぃぃぃ・・」
「祥子さんを独り占めして愛したかったんです。こんな風に。」
ずん! さきほど彼の名前を憶えさせたように・・・身体で・・もっとも敏感で感じやすい場所で望月さんの肉体を、全てを憶えろとでも言う様に強く突き上げるのです。
「ぁぁあん・・ま・たぁぁぁ・・」
望月さんの大きな・・・すんなりと綺麗なフォルムなのに太くて・長い塊が・・・わたくしの花びらの中を押し広げ・・溢れ出すミルク色の愛液を掻き出してゆくのです。
「犯すんじゃありません。可愛がっているんです。愛しているんですよ、祥子さん。」
脚を左右に大きく広げる様に突き放すと、望月さんはまた被いかぶさって・・・腰の動きはそのままに・・さきほど愛液で濡れた指先を拭った右の乳首を甘噛みしたのです。
「あっ・・ひいぃぃ・・ごめん・・な・さぁぁぁぃぃ」
快感に溶かされた苦痛は、わたくしの全身を淫らにひくつかせるのです。
そして・・また・・・

「こうしたかった、ずっと。31日に祥子さんを迎えに行った時から。別荘の浴室で祥子さんにフェラチオをされたときも、一人きりならためらいもせず愛していました。」
花びら餅だと言われた無毛の白い丘に、しなやかな望月さんの茂みがぴったりと張り付くほどに奥まで・・・全てを・・・彼の大きな塊の全部を納めて・・まぁるく・・小さく・・互いだけにしかわからないほどかすかにわたくしの身体を刺激し続けるのです。
「じゃぁ・・ぁ・・ん・・どぉし・・てぇぇ・んんあぁぁ・・・」
「こそこそと、あなたを抱くのだけはしたくなかった。」
「んくっ・・ん・・」
腰の動きを次第に大きくしながら、望月さんは耐えかねたように唇を貪るのです。
「はぁぁ・・ん・・」
また一段と大きくなった塊の行き来に、わたくしは熱に浮かされたように淫らな声を上げてしまうのです。
「こんな風に祥子さんの魅力的な声を表情を、猿ぐつわやキスで奪うようなことをしてまで、こそこそと自分の欲望だけを満たすなんてことしたくなかった。」
「ぁぁあ・・っくん・・」
また。高まる悦楽に蕩けてゆく声を望月さんの唇が飲み込みます。
「祥子さんのこの声を聞いて、あの方達が我慢できる訳がない。結局またあなたを責め立てる言い訳を与えるだけになってしまうのがわかっていて、抱くことなんてできませんでした。」
離した唇をわたくしの左の耳元に寄せて・・ぴったりとわたくしを抱きしめながら望月さんは訳を聞かせてくれたのです。
「ああっぁぁぁ・・・ゆう・やぁぁ・・・いくぅぅ・・」
彼の胸の中で、わたくしは彼の告白を聞いて・・名前を呼びながらまたも・・上り詰めてしまったのです。

「逝ってください。何度でも。」
望月さんは、なにかを掴む様にシルクのストッキングの中で丸まった足指とピンと反り返る脚が力なく落ちてゆくのを待ってから、わたくしの脚に手を掛けて立て膝の形にさせました。
「祥子さん、僕のを飲み込んだままで起き上がってみてください。」
はぁ・・はぁ・・・と肩で息をするわたくしを長い右腕で抱きとめると、左手をガーターベルトを付けたまま愛液が流れ伝う腰に添えて・・ぐいと上体を引き上げたのです。
「はぁぁ・・・・ふか・いぃぃ」
これだけ突き動かしても果てることのない大きな望月さんの塊を、力をなくしたわたくしの身体は自らの重みでさらに飲み込んで・・・猛々しい男性を軸に彼の膝の上に座らされてしまいました。
「これで祥子さんの胸も唇も・・・勿論ここも。」
望月さんの手が、彼の茂みに密着したままの幼女のように白いのに・・ふっくらと淫らな佇まいをした丘を覆うのです。
ちくちくと剃刀で鋭く切られた先端が望月さんの指先を刺激しているかと思うと・・・やぁぁ。
「眼をそらしちゃだめです。祥子さんこっちを見て。全部愛してあげます。」
「あっああぁぁぁん・・」
わたくしの膝の下で、望月さんの腰が信じられないほどに強く大きく突き上げられるのです。

夢のかよひ路 22

「祥子さん、なにをぐずぐずしているんですか?」
わたくしは、望月さんの前で視線を恥ずかしさから彼に戻すことができずに、望踵から抜き取ったボクサーパンツを膝の上でたたんでおりました。その躊躇を見抜かれてしまったようです。
望月さんはわたくしを優しく咎めたのです。
ごくっ・・・喉に絡まる唾を飲み込む音が頭の上から致しました。
「それを置いて、僕を見て。」
望月さんの声はほんの少し・・・掠れていました。
わたくしはゆっくりと視線を上げていったのです。

彼の足首から膝・・・先端から溢れる粘液でぬめる塊・・引き締まった腹部・わたくしを抱きしめてくださった厚い胸板・・そして欲情に濡れた瞳で見つめている顔。
「は・い・・」
わたくしの声も望月さん同様に掠れていました。
そこに居る男性の存在を目にするだけで、こんなにも<欲しい>と思うことがあるなんて・・・思ってもおりませんでした。
「ゆうや・・さ・ん?」
望月さんの手がわたくしの腋の下に差し入れられ、力づくでベッドの上に引き上げたのです。
「あん・・」
カバーすら外していないダブルサイズのベッドの上にわたくしを仰向けに押し倒すと、望月さんは性急にわたくしの両脚を押し広げ・・彼の大柄な身体を割り入れたのです。
指はたくし上がったスリップを潜り・・・さきほどから押しとどめる茂みがないばかりに・・・はしたなく蜜を滴らせたTバックの細いクロッチの上をなぞります。
「はぁん・・」
「いいですね。」
「あっ・・ああぁぁぁん・・」
わたくしに被いかぶさった望月さんは、独り言のように呟くとクロッチだけを乱暴にずらして、わたくしの返事も待たずに彼の塊を突き入れたのです。
「こんなに濡らして。」
ぺっとりと濡れた指先をわたくしの右の乳首で拭うと、肩先に両手を突いて腰を・・・これ以上は我慢できない・・とでも言う様に抽送をはじめたのです。
「あぁぁん・・だめぇ・・・」
声を堪えることなんてわたくしには出来ませんでした。
ずっと、今朝別荘を出たときから・・いえ昨日望月さんの胸の中で微睡んでいた時から望んでいたことです。
望月さんに・・・こうして・・・あああぁ・・ぃぃ・・・
「っく、そんなに締め付ける。欲しかったんですか?これが。」
淫楽にまるで苦痛を耐えるかのように眉間を寄せるわたくしを真上から見つめて、望月さんが問うのです。
「ゃぁあ・・ぁああん・・」
答えたくても、わたくしを抉る反り返った塊は・・子宮口を分け入るほどに深く・・・押し入ってくるのです。淫らに相手の男性をも狂わせる数の子天井を、ごりごりとこすり立てるのです。
押し寄せる快感に・・・とても、言葉にはなりませんでした。
「祥子さん、答えないと抜きますよ。」
「あ・・ぁぁぁ・・だ・っめ・・」
野生動物の疾走を思わせる躍動的な動きがふっと止まり、ゆっくりと昂りが引き抜かれてゆきます。どれほど締め付けてもう一度、彼を欲しがるはしたない胎内に引き戻そうとしても・・容赦なく。
「ほしかったの・・ずっと・・ゆうや・の・・おっきいのぉ・・」
滑っているであろう花びらから抜け出る寸前に、わたくしは喘ぎを乗せた声でとぎれとぎれにようやくそう口にしたのです。
「もう一度、はっきり」
微妙な位置に腰を置いたまま、望月さんが命じるのです。
「ずっと・・ゆうやだけに・・おかされたかったの。ほしかったの・・ゆうやの・・あうっ」
ずん! 全部の言葉を口にする前に、望月さんは最奥まで一気に彼の塊を押し入れたのです。
「いくっ・・ぁ」
わたくしは一番感じやすい奥に、一瞬の内に受け止めた彼の質量で軽く達してしまったのです。
快感はひくひくと蜜壷を全体で大きな塊を飲み込むように蠢かせてゆくのです。

夢のかよひ路 21

「ぃやん・・・そんなふうに見たら・・だめ」
彼の視線に気付いて、いまさらですがわたくしは両腕で乳房を隠したのです。
「素敵な眺めでした。いえ、セクシャルな意味じゃなくて、なんていうか神聖な感じすらして。なのに、そんなに祥子さんが恥じらってみせるから、辱めたくなってしまう。」
望月さんは腕を伸ばして、乳房を押しつぶすほどに重ねたわたくしの手を掴んだのです。
「だめ・・」
わたくしは少しだけ抗いました。決して敵う訳がないのをわかっていて。
「祥子さんの腕じゃ、隠し切れていないですよ。ここも。」
「あん・・」
きゅっ・・望月さんの指先が乳房の下辺をつまみます。
「ここのまぁるいラインも、男性を幻惑するのに充分なほど魅力的だって自覚してください。」
指摘された場所を庇おうと腕を下ろしてゆくと・・Gカップの乳房は、支えられ持ち上げられた形になってしまうのです。そのボリュームは今度は望月さんの眼の前にはしたなく昂ったままの乳首を晒す結果となるのです。
「やぁ・・ん」
その一瞬を彼が逃す訳がありません。揃えた3本の指先で軽く撫でるのです。
「だから、無駄なんです。祥子さんの大きなバストをその腕で隠そうなんて。」
思わず漏れた喘ぎに、見下ろす彼の視線から感じすぎる先端を隠そうと腕の力を緩めたとたん、わたくしの両手は望月さんの手に絡めとられてしまいました。
「離して・・悠哉さん・・」
「もうこのままでいいんですか?」
望月さんの腕がわたくしの両手を・・・昂って・ひくひくと動く・・塊の上にあてがうのです。
「あん・・おっき・・ぃ」
「もう一枚脱がせてくれなくちゃいけないものがあるでしょう。」
わたくしの手だけをそのままにしてご自分はベッドに両手を突いたのです。
腰を浮かせて、促すのです。ボクサーパンツを下ろすように、って。

そう・・・望月さんのことをいつもお若い方だとばかり思っていますが、それはご一緒にいらっしゃる方達と比べてのこと。
34歳だと言う彼は、充分に女性の扱いにも長けた大人なのです。
わたくしが出逢う前にも、もしかしたら今でも・・・彼を愛した女性は数多いるのかもしれません。
いつも、美貴さんや山崎さんや石塚さんに遠慮をして控えめにしている彼が、実はあの方たちにも劣らないテクニックの持ち主なのは・・・箱根の夜に存分に味あわされていたのですから。

わたくしは彼の手管に翻弄されて、ゆっくりと指先をボクサーパンツのウエストのゴムに掛けたのです。そのまま堅いヒップの丸みに沿わせる様に剥き下ろしても、前は大きく昂った塊にウエストが引っかかったままでした。
どうすればいいの?
無言のままで望月さんを見上げても、彼は優しく微笑むだけなんです。
視線を戻して・・・わたくしは塊の先端に隠れたようになったゴムに指をかけたのです。
「はぁぅ・・・」
跳ね上がり・彼の腹筋を打つように跳ね返る大きな・・・塊。わたくしに昂ってくださるその姿に、淫らなため息を吐いてしまいました。
「見とれてないで、ちゃんと脱がせてください。」
「あん、ごめんなさい。」
踵を上げて持ち上げた彼の太ももから、ボクサーパンツを引き下ろしていったのです。

夢のかよひ路 20

「はぁぁ・・ん・・だめっ・・もちづ・き・・さぁ・・ん」
突然彼の手が、スリップごしの白いヒップを鷲掴みにし、ねぶる乳房の先端をきつく甘噛みしたのです。
「いっ・・たぁあぁぁぃぃ・・・」
わたくしは、痛みと共に・・・望月さんの腕の中で軽く達してしまったのです。萎えて落ちそうになる腰を、望月さんは許してはくれませんでした。
「お仕置きです。勝手に逝きましたね。それに僕の名前をもう忘れたんですか、祥子さん。」
「・・ぁぁん・・ゆう・や・さぁん・・」
「そう、悠哉です。いいんですよ、祥子さんなら呼び捨てにしても。」
望月さんの左手が乱暴にストラップを引きはがし・・・右の乳房を・・・左の腰と同じように指先をめり込ませ握りつぶさんばかりに責め立てるのです。
「ゃぁぁ・・・ゆるして・ぇぇ・・・」
スリップはガーターベルトの巻かれたウエストにたくったままでまとわりついていました。望月さんの親指が右の乳首をぐりぐりと押さえつけ、わたくしの知らなかった快感を強要してゆくのです。
「もう一度、さぁ。」
「ゆうぅ・・やぁさぁぁん・・ はぁぁ・・ゆるして・ぇぇ・・」
「良く出来ました。」
ふっと・・乱暴だった望月さんの手が、再びやさしくわたくしの身体をかき抱いてくれました。
「さぁ、僕を見てもう一度言ってください。」
羞辱から淫らな悦楽へと突き落とされたわたくしは、ぼぉっと霞む視界で改めて彼を見つめたのです。そして、ほんの数分の責めの間・・・瞳を閉じていたことに・・気づいたのです。
「悠哉さ・ん・・・」
「あぁ、祥子さんのその蕩けた視線で見つめられて名前を呼ばれると、それだけで感じてしまう。その声だけでも、側にいるだけでもいいのに。だから、もうこんなに・・・」
中途半端なままに腰にまとわりついたスリップに手を掛けることもなさいませんでした。ふいに、望月さんはわたくしの膝を締め付けていた太ももの力を抜いたのです。
わたくしはその場に頽れるように、膝をついてしまいました。

再び二人の視線が交わる角度が変わります。
見上げるわたくしの前で、望月さんがご自分の手でファスナーを下ろす音がいたしました。
「やっぱり。はは、はずかしいな。」
腰を浮かせてコットンパンツを太ももまで引き下ろし、ネイビーのボクサーパンツだけになった彼の前は・・・濡れて色が濃く変わりくっきりと隆起していたのです。
「脱がせても・・いい?」
わたくしはボクサーパンツと太ももに止まったコットンパンツの間の望月さんの太ももに左手の指先を触れ、欲情に掠れた声で尋ねたのです。
「そうですね。このままじゃ間抜けですね。」
はははは・・・笑い声を上げながら、彼は左右の膝をまっすぐに伸ばしました。
スリムに見えて、実は鍛えられている望月さんの太ももを横切る綿布に手を掛けて、ゆっくりと下ろしてゆきます。いつもは目にすることのないくっきりと浮び上がる大腿四頭筋に、目眩がいたします。
そういえば、明るいところでこんな風に戯れるのも、わたくしが望月さんに何かをして差し上げるのも・・・ほとんどなかったことです。
望月さんがスラックスを脱がれる時は、わたくしは既に他の方の手で忘我の境地へと連れ去られた後ばかりだったからです。
双脚から抜き取ったネイビーのパンツを軽くたたみベッドの足よりに置きました。
次は、靴下です。
別荘にいらした時にはいてらした黒のビジネスソックスではなく、今の装いに相応しいネイビーのコットンのものに履き替えていらしたのです。
右足から順に、足先から抜き取っては軽くたたんでコットンパンツの上に置く・・・そんな母のような行為を乳房を露にしたままで続けるわたくしを・・・望月さんがじっと見下ろしていたことに気付きました。

夢のかよひ路 19

スリップを選べば身体を覆うものを奪われ下半身を小さな布切れに覆われただけで、望月さんの目に全てを晒さなくてはなりません。Tバックを選べば、刈り取られたまま放置した嗜みのない秘丘を晒す恥辱に耐えねばなりません。
二つの羞恥の狭間で・・・わたくしははしたない一言を・・・口にしてしまったのです。
「その前に、こんどは望月さんのをお口でさせて。」
「ふふ、だから祥子さんが好きなんです。あんなに感じていても、ちゃんと僕のことを考えていてくれる。」
今度は・・・濃厚な・・・先ほどまでわたくしの乳首に繰り返した口戯を・・・舌に再現するようなディープキスでした。
「スリップにしましょう。」
「・・・ゃぁ」
答えを出すことが出来なかったわたくしの代わりに、望月さんは次に奪うものを決めてしまわれたのです。このまま・・・明るい午後の日差しが広がる望月さんの寝室で、何一つ覆われることなくこの身を彼に晒さなくてはならないなんて。
「僕の望みを叶えてくださるのではなかったのですか?」
望月さんは、わたくしの上体をすっかり起こすとベッドから下りるようにと・・・合図をしました。そしてご自身は、ベッドの端に腰を下ろされたのです。
「そう、ここに立ってください。」
肩幅に開いた彼の脚の間に、スリップ姿のわたくしを立たせたのです。ムートンのスリッパを脱いでストッキングごしにはじめて触れたフローリングの床は、暖房で仄かに暖かく、優しくわたくしを迎えてくれました。
それでも幾度もの快感に力をなくした脚はわたくしをよろめかせ・・・これでもかとばかりに丸みを帯びた腰のラインを望月さんの暖かな手に委ねさせるのです。
望月さんのしなやかで力強い太ももが、わたくしの膝をがっしりと挟み込んだのです。

た・ゆゆん・・・重みに揺れる熟したGカップが彼の視線の先で震えます。
「顔を埋めたくなる景色ですね。でも、こんなにぐしょぐしょじゃいやだな。」
下から見上げるような望月さんの視線は、素直な思慕と欲望に溢れておりました。
「あぁぁ・・ん・・」
望月さんの右手がわたくしの左のストラップを引き下ろします。白い・・薄く血管を透かせた胸元の肌に貼り付くスリップをゆっくりと引きはがしてゆくのです。
「ふっ・・」
「だめ・・ぇっ」
堅く立ち上がったままで露にされた左の乳首に、望月さんの息が強く吹きかけられるのです。ねぶられ吸い尽くされて敏感になった先端は、思わぬ刺激にわたくしの身芯を強く疼かせるのです。
つっ・・っ 触れられてもいないいまの刺激で・・・しっかりと閉じた脚の奥の花びらの中から蜜が溢れたのさえ・・・わかりました。
「こんなに感じやすいんですね。僕と二人きりでも。」
望月さんに知られてはいけないと思うのに、太ももを走った慄きはそのまま彼に伝わってしまいわたくしは羞恥に頬を染めるしかありませんでした。
「ひどい・・望月さん。」
わたくしのことを複数の男性に愛されることだけを好む淫乱な女だと誤解されているような気がして、哀しくなってしまったのです。
「悠哉です。」
「ゆうや・・さん?」
「そうです。二人きりの時は悠哉と呼んでください。そんな哀しそうな顔で、他人行儀な名前を口にする祥子さんを見るのは切なすぎる。」
「だって。誤解・・・ぁあ・・っ・・」
裸にされた左の乳首を慎ましやかな乳暈ごと貪るように望月さんは口唇を覆いかぶせ・・ねぶるのです。
逞しい腕はわたくしの身体に回され、感じすぎる腰の丸みを味わう様に10本の指を愛でる様に這い回らせながら。

夢のかよひ路 18

「ふ、こんなにくっきりと堅くして。いつまでも咥えていたくなる。」
ちゅぷ・・・ 望月さんの唇の動きは、まるでわたくしが男性にしてさしあげるフェラチオと同じでした。
ねっとりと、快楽の芽を舌先で探り当てて・・印のないその場所を責め立てる。吸い上げねぶり尽くすその行為は、お相手を淫楽に蕩けさせるためだけに・・・繰り返されるものなのです。
「ゆるし・・て・・」
もじもじと身を捩るわたくしにスリップの裾は、はしたなくずり上がってきておりました。直したくても横抱きにされたわたくしの両手は、望月さんに捉えられていたのです。
「すぐに全部を剥ぎ取って、一部の隙もなく僕の身体に抱きしめたいと思う。でも祥子さんだから似合うこのドレスのようなランジェリーを着けさせたままで・・・どこまでも貪りたくもなってしまう。」 
「あぁっ・・」
放置されたままの右の乳首は、室温に冷えた望月さんの唾液で優しく氷で愛撫したのと同じ状態に・・・反応していたのです。
それを改めて口に含むことで・・・今度は熱い舌が、乳首に直接蝋燭を垂らした様に身を反らせるほどの刺激を与えます。

「すみません。こんなに濡らしてしまった。」
乳房の頂きから1/3ほどまでにぴったりと張り付いたスリップは、黒いレース故に透けはしませんでしたが、繰り返される口戯にそこだけ色を変えておりました。
「いやぁ・・・」
「だめです。祥子さん、僕のことを見てください。」
黒髪を振り乱す様に顔を背けたわたくしに、望月さんのやさしい命令が届きます。
「見てくれないなら、この恥ずかしいランジェリーのままでもっと恥ずかしい場所に連れてゆきましょうか。」
「えっ・・だめぇ・・・」
わたくしは、望月さんを見上げました。どれほど恥じらいを表情に浮かべてもわたくしの眼元には・・・淫楽に溺れた証が濃厚に漂っていたことでしょう。
「キッチンがいいですか?それとも玄関?ベランダにしましょうか?リビングは別荘でここを・・・」
「ゃ・ん・・」
望月さんの指が、わたくしの太ももの狭間をランジェリー越しに撫で上げます。
「つるつるにするために使いましたからね。それとも、あの時と同じ姿に括って・・・最後まで犯されたいですか?」
「だめぇぇぇ・・・」
望月さんも美貴さんも山崎さんもご覧になっている前で、石塚さんの手にした鋏が・・剃刀が・・・わたくしの茂みを全て刈り取ってゆかれた一昨日の夜のことを思い出させるのです。
まだたった2日なのに、あの時のままにしている丘には、わたくしだけにわかるほど微かにちくちくと・・・漆黒の芽が萌えはじめていたのです。
「お願い、そんなのいや・・・ここで。・・して」
望月さんが緊縛の技術を持ち、ご自分が縄を打たれたわたくしを犯す時にどれほど興奮してくださるのかはわかっておりました。でも、望月さんにだけは・・・優しくノーマルに抱かれたかったのです。
「そんなに嫌ですか?ベッド以外でもあんなに感じるのに?」
「いじわる・・いわな・い・・で・・」
くしゅっ・・・ むき出しのままで冷えた肩が火照った身体をも冷やしていたのでしょうか。小さくすすり上げたわたくしの鼻先に彼の指がちょん・・と触れたのです。

「祥子さんがそんなにいやがるなら、しません。そのかわり、もう1枚ランジェリーを脱ぎましょう。スリップがいいですか?それとも・・・パンティにしますか?」
にこっと微笑む望月さんの表情は、寛容でセクシーな恋人のものでした。そしてわたくしの体側に触れる彼の身体は、熱く堅くそそり立っておりました。

夢のかよひ路 17

「ブラジャーとスリップ、どちらを先に外しますか?」
望月さんは思わぬことを質問されるのです。
「ゃ・・そんなこ・と・・」
「いいんですよ。祥子さん自身の身体のせいで、どんどん乱れてゆくランジェリーが恥ずかしくないのなら、ね。」
「あ・・ぁぁ・・」
「ふふ、スリップに包まれた乳房が、たゆん・・と揺れるのは魅力的です。」
大きすぎるバストは、ゆったりと身体を覆うスリップのシルエットの中で、そこだけレースの布地をぱぁんと張り切らせておりました。
赤子をあやす様に膝をゆすり続ける望月さんの動きは、ずりあがったブラの下からくっきりと立ち上がった乳首の淫らな形まで・・・陰影を付けて露に見せていたのです。

「おねがい、はずかしいわ」
望月さんのやさしい腕の中で、ほんの少し身じろぎをしました。
それだけでまた・・・中途半端に乱されたランジェリーを乗せた乳房はまた少し・・・横に揺れるのです。
「どちらにしますか?」
もう・・選択肢はありませんでした。
このままスリップを選べば・・・ずり上がったブラジャーがわたくしの乳房の頂から下辺のたふんとした丸みまでもを陽の光の中で一層淫らに飾り立てるための額縁に成り果てていることを、晒す事になるだけだったからです。
「ブラを・・外して・・」
わたくしの声はあまりの恥ずかしさに掠れておりました。
「わかりました。」
右のストラップ・左のストラップだけを注意深くわたくしの腕から外すと、まるでマジックでも見せつける様に、胸元からリバーレースのブラを抜き取ったのです。
「あっ・ん・・・」
ブラと一緒に引き上げられた乳房が・・たゆゆ・・ん・・と大きくスリップの中を揺れ・・敏感な先端をレースがこすり上げるのです。
「祥子さんは飾らないほうが素敵です。ほら、ここも」
はむっ・・・ 望月さんの唇が、くっきりと立ち上がった先端をスリップの布地ごと咥えます。たっぷりと唾液を乗せてなめまわす舌先からあたたかいぬめりがレースに広がってゆきます。
「あぁぁ・・ん・・だ・めぇ・・」
昨日一日まったくどなたにも触れられなかったとは言え、その前の32時間ほどは・・・ずっと嬲られ続けていたのです。
ランジェリーのレースの刺激だけでも立ち上がらせてしまうほど敏感になっているのに、望月さんはその先端を無邪気に吸い上げ・・舐め回して・・ゆくのです。
それもランジェリーごと。
ひりつくような快感は、わたくしの声をはしたなく・淫らに・・簡単に変えて行ったのです。
「だめですか?こっち側はあまり感じやすくない方でしたか」
「ああぁ・・んん・・やぁぁ・・」
咥えていた右の乳首から、一層敏感な左に望月さんは口唇を動かしたのです。
彼の唾液で濡れそぼったスリップは、室内の空気にひんやりとして・・・余計に右の乳首に疼きを溜めていったのです。
ぴちゃぁ・・・ちゅぅぅ・・ 水音さえも耳元に直接送り込まれている様に、望月さんは左の一層敏感な乳首をねぶり続けるのです。
「ひぃぁあ・・ん・・」
望月さんの目の前で、右の乳房はたゆたゆんと・・・彼の送り込む淫楽に揺れています。
昨日までの、責めに傷ついたわたくしの身体をいたわるような口戯は、やんわりと上り詰めることのできない快感にわたくしを浸し続けたのです。

夢のかよひ路 16

「なぜ、そんなことを言うの?」
わたくしが男性の目の前で身支度をしないことを一番良く知っているのは、望月さんのはずです。なのに・・・
「僕が見たことのないオペラピンクのランジェリーを、<着る>姿を見せてください。」
「着てからなら・・・」
「いいえ、美貴や山崎様や石塚様には着た姿を見せたのでしょう。僕はあの夜、祥子さんの白い肌を彩ったランジェリーをほんのわずかも見ることが出来なかったんです。ずっと、僕を悩ます妄想にけりをつけていただくためにも、あの方達も知らない祥子さんの姿を見せてください。」
「やぁ・・・ぁぁ・・」
はじめて、あのランジェリーを身に着けた夜。
3人の紳士はベッドの上でわたくしのお洋服とランジェリーを剥ぎ取りながら・・淫らにわたくしを堪能し尽くしたのです。ブラとTバックのパンティとスリップ・・・そしてガーターベルト。
望月さんに最初にお逢いした時身に着けていた4点のセットのうち、3点は美貴さんたちに持ち去られ、彼が迎えにきてくれた時には・・わたくしの身体にはガーターベルトしか残されていなかったのです。
たとえ、あの朝わたくしを迎えにきた望月さんがランジェリーを身に着けたわたくしを見たいとおっしゃられても・・・とてもお見せすることなんてできなかったのです。

「でも、今はこの姿を堪能させてください。」
望月さんは身体の向きを変えて、わたくしの左脇に膝を差し入れたのです。
わたくしの上体は横抱きにされたように彼の右腕の中にすっぽりと収まってしまったのです。
「おねがい・・優しくして」
すぐ左上にある望月さんの甘い笑みをたたえた顔を見上げました。
「僕は、優しくないですか?」
そう問われてしまえば、ふるふると・・・首を横にふるしかありませんでした。
「恥ずかしいこと・・しない・で・・」
にっこりと微笑んだ望月さんは、わたくしの恥じらいを浮かべた顔をわざと覗き込むのです。
「僕と二人きりなんです。恥ずかしがる必要はありません。それに、祥子さんには恥ずかしいところなんて、何一つありません。」
「あっ・・・ゃぁん」
優しく語りかけながら、望月さんの指はブラのスナップを外していたのです。Gカップの乳房の量感のせいで肩紐までが落ちかかりそうになるのを、咄嗟に押さえようとしたのです。
「だめです、隠したりしちゃ。ランジェリーに閉じ込められている祥子さんのバストも素敵ですが、拘束を解かれてたゆん・・と揺れるこの白い肌はもっと素敵なんですから。」
よいしょ・・という感じで望月さんはわたくしの背に当てられた右膝を揺らします。
たふふ・・・しなやかなフルカップ・ブラを胸の頂きに乗せたまま・・白い乳房が脂肪層独特の半拍遅れたリズムで揺れてゆきます。
揺れる度に・・・本当の量感を被い切ることなど出来ないブラは、少しずつずり上がって行ったのです。

夢のかよひ路 15

また少し、ワンピースの裾が引き上げられました。
太ももの合わせ目が・・・望月さんの眼に触れてしまうぎりぎりまで。
ワンピース同様に、スリップの裾までもがはしたなく乱れて・・・ずり上がっていることは、そこだけ剥き出しになっている太ももに触れる空気でわかりました。
「破れた、祥子さんがもう捨てようとしたストッキングを見て、何度この景色を想像して・・・」
ピッ・・・ ストッキングへと伸びるガーターベルトのストラップを望月さんの指がはじきます。わたくしはその刺激だけで、ぴくんと身を震わせてしまったのです。
「だから美貴に頼んだんです。今度、祥子さんと逢うときは僕に彼女の身の回りのことをさせてほしいって。」
紅葉に包まれた箱根の宿で、望月さんがわたくしにかしずいてくださったのはそんな理由だったなんて・・・はじめて知りました。

「少し腰を浮かせてください。」
彼の右手がわたくしの腰の丸みに添えられます。
わたくしは今度は素直に・・・身体を反らせたのです。
「ぁ・ん・・」
するっ・・・スリップの上を、シルクニットは滑ってゆきます。
黒のリバーレースに浮かぶヒップからウエストまでの熟した女のラインが、いまは望月さんの視線に晒されているのです。そう思うだけで身体の芯を淫らな慄きが駆け抜けてゆきました。
はしたないその反応を彼には知られたくなくて、わたくしは身を捩ることを堪えました。なのに・・望月さんの視線の下で・・・ランジェリーに包まれたわたくしのはしたない身体は、代償だとでもいうように花蜜を溢れさせていたのです。
「スリップを身に着けている女性も、僕は祥子さん以外は思い当たりません。美貴と一緒に行ったランジェリーショップのオーナーが、応接室でフルセットのランジェリーを広げて、こんな風に着けてもらえるなんてこの品達は幸せだと、ため息のように漏らした言葉は今でも忘れられません。」
望月さんの手はウエストから腰へのラインを撫で下ろします。くっ・・と年齢相応の身体が恥ずかしくて・・・つい腹筋に力を入れてしまうのです。
「『慎ましやかな女性なんですね。』と、その時ショップのオーナーは言っていました。美貴は『ええ、とても』と答えていましたが、その時僕はまさか・・・と思ったんです。だって他のランジェリーはとても扇情的だったから。」

「あっ・・ゃ・・」
わたくしの顔の上に重ねられた手のひらを、望月さんの両の手が掴み取ります。
「起きてください。」
力強い彼の腕で、わたくしの上体は引き起こされていったのです。
羞恥に上気した表情のわたくしは、望月さんと向かい合う様に起こされました。
「さ、手を上げて」
「きゃ・・っ」
掴まれたままの手を頭上にまとめると、彼はワンピースの裾を一気に引き上げ・・・わたくしをランジェリーだけの姿にしてしまったのです。
もう一度わたくしをベッドに横たえると、望月さんは背筋を伸ばし・・・羞恥に染まった頬をロングヘアに埋める様に顔を反らせたわたくしを俯瞰したのです。
「あぁ、よかった。祥子さんの白い肌には、やっぱり強い色が似合いますね。」
望月さんはわたくしの脚の上から、腰を退けたのです。
広いキングサイズのベッドの・・・わたくしの左側に膝立ちになると、思いもしないことを口にしました。
「後で、祥子さんにランジェリーを一組プレゼントします。僕の目の前で着替えてみせてください。」

夢のかよひ路 14

キングサイズのベッドにわたくしを押し倒した望月さんは、乱れたニットワンピースの太ももの上に馬乗りになっておりました。
わたくしの動きを封じ込めたその姿勢のままで、彼はネイビーのセーターを脱いだのです。
真っ白なシャツの彼の上半身は一層大きく・・・見えました。
「おねがい、シャワーを浴びさせて。」
シャツの釦を1つずつ・・・戸惑うわたくしを見つめながら外してゆく望月さんにもう一度お願をしたのです。
「必要ありません。いまの祥子さんも、僕の好きな香りがしています。」
ふぁさっ・・・細番手の糸で織り上げられた肌触りのいい望月さんのシャツが、ベッドの足下へと落ちてゆきます。
望月さんのすべすべとしたしなやかな筋肉の隆起を示す胸板に、午後の光が映り込みます。

「さぁ、今度は祥子さんの番です。」
望月さんは、少しだけ・・・わたくしのワンピースがたくし上がってしまった膝の上あたりに彼の腰の位置を動かしました。
「僕が選んだランジェリーを着けた姿を見せてください。」
「やぁあっ・・・」
望月さんの手がワンピースの裾に掛かったのです。少しずつ引き上げてゆこうとする裾を、わたくしは両手で必死に押さえました。
「祥子さん。」
シルクニットを掴んだ彼の手が離れてゆきます。
「僕の好きにさせてくれるって言った言葉は、嘘なんですか?」
「嘘じゃ・・ない・わ。」
冷静な望月さんの声に、わたくしは不実を責められた様な気がしてしまったのです。
「その手をどけて下さい。それとも、括られたいですか?」
「いや・・ゆるして。」
「ワンピースごと括って、鋏でワンピースを切り裂いて裸にしてゆきますか?」
「やぁぁ・・・」
「僕は、赤い縄で縛り上げた祥子さんを見るのも好きなんです。でも、せっかくこうして二人きりになれたのに縛って無理矢理になんてことはしたくありません。」
彼の声はいつもの優しさに戻っていました。
望月さんの縄は・・・長谷川さんの厳しい縛りとは違いました。愛しく包み込むような括り方で、わたくしは彼の腕に抱かれているような錯覚さえ憶えたのですから。
でも、いまは望月さんが言う様に括られて愛されたくはありませんでした。
わたくしは手指の力を抜き・・・彼の視線を遮る様に手の甲で目元を覆ったのです。
「僕を見てくれないんですか?」
「恥ずかしいの。陽の光の中であなたに見られるなんて・・・」
「綺麗ですよ。祥子さんは。」
望月さんの手が再びワンピースの裾にかかったのです。

今度は、焦らすようにではなく・・・すっと、太ももを横切るストッキングの上端まで引き上げたのです。
「僕は、ガーターストッキングをこんな風に普段から身に着けている女性を祥子さん以外には知りません。」
「はぁぁ・・ん」
つぅぅっ・・・揃えて伸ばした左の内ももを望月さんの指が這い上がってゆきます。
「はじめて祥子さんにお逢いした日の夜。美貴からガーター用のストッキングを1組届ける様に言われたとき、とても驚いたのを憶えています。慌てて・・・深夜まで営業しているとあるホテルのランジェリーショップまで車を走らせました。」
オペラピンクのランジェリーを・・・破れたストッキングとガーターベルト以外全てを初対面の3人の紳士に奪われた朝、ホテルに用意してあった新しい替えのストッキングは望月さんが手に入れてくださったものだったなんてはじめて知りました。

夢のかよひ路 13

「祥子さん。」
わたくしの耳元にかかる望月さんの息は熱をもっているかのようでした。
「そんなことを言ったら・・」
「言ったら?」
声に、意識的に媚びと甘えをコーティングさせてみたのです。
挑発・・・だと言われれば、きっとそうだったのでしょう。
「許しません。」
苦しそうに、でも喜びを滲ました声で望月さんがきっぱりとおっしゃったのです。

「許しません、僕が満足するまで祥子さんを離しません。紳士的になんてなれないかもしれない。それでもいいんですね。」
ゆうべ、ふたりきりのベッドで・・・わたくしはてっきり望月さんはそうなさるのだろうと思っていたのです・・・箱根の夜と同じ様に。
なのに彼の身体はわたくしに反応していたのにも関わらず、抱きしめて眠るだけで、昂りを堪える様にして静かに静かに過ごしてくださったのです。
わたくしは望月さんだけの手で満たされてゆく密やかな二人きりの時間を、熱望しておりました。
「ええ。あなたの好きにして・・・」
「行きましょう。」
甘やかな返事の途中で、望月さんは立ち上がりわたくしの手を引いたのです。行くって・・・どこに。
ダイニングキッチンを抜け、一旦廊下に出た望月さんはそのまま左手へ向かいわたくしを先に扉の中に押し込んだのです。

カチッ・・・ 後ろ手に、彼が扉の鍵を締めたのがわかりました。
出窓から午後の日差しが入るその部屋は、ベッドルームでした。
ライティングデスクとダブルサイズのワイヤーフレームのベッドだけが置かれたシンプルなお部屋は、望月さんにぴったりでした。
「ここは、あなたの寝室なの?」
扉の前に立って、レースのカーテンから溢れる日差しを身に纏ったわたくしを見つめる望月さんに、わたくしは無邪気に微笑みかけてみたのです。あまりに、険しい顔を彼がしていたから。
望月さんは声も出さず、眼だけで頷いてくださったのです。
リビングのソファーなんかじゃなくて、ここで・・・彼のベッドにわたくしを愛してくださるのだとわかって、嬉しくなりました。
背の高い望月さんは、つかつかと・・・わたくしに迫ってきます。
立ちすくむわたくしの肩に手を掛けると、改めてご自分の胸に引き寄せて強く抱きしめたのです。

「お願い、先にシャワーを浴びさせて・・・」
わたくしは性急に身体を這い回る彼の手に驚きました。
朝、温泉で身を清めてきてはおりました。
でも、その後5時間近くドライブをし、先ほどはソファーの上で・・・彼のキスで一度絶頂を極めていたのです。
いまの身体がどれほどはしたない状態なのかは、わたくしが一番わかっておりました。
キシっ・・・ 身じろぎをするわたくしに、シルクニットのワンピースが身代わりとでもいうように絹鳴りをいたします。
「必要ありません、祥子さんに洗い清めなければならないところがあるなら、僕が綺麗にしてあげます。」
「ぃやぁ・・っ」
「その恥じらいの表情も、濃く漂うフェロモンも・・・僕だけのものです。」
「お願い・・・ね。」
「好きにさせてくれると言ったのは、祥子さんです。」
「あぁっ・・・」

夢のかよひ路 12

紅茶の香りの唇が、ゆっくりとわたくしの上から離れてゆきます。
「幻滅しましたか?」
「いいえ」
幻滅なんてしませんでした。
わたくしと10近くも年の離れた若くて魅力的な男性が、本気で恋をしてくれているなんて思ってもいなかったからです。
望月さんなら、いくらでも魅力的で好みのタイプの恋人を手に入れることくらい出来たことでしょう。もしこの部屋に可愛い奥様が待ってらっしゃったとしても、当然のこととして受け入れていたでしょう。

でも、箱根の宿の二人きりの露天風呂で、わたくしに語りかけて下さった言葉には、いま彼が口にしたような<好奇心>なんて欠片も感じられなかったのです。
真情の溢れる言葉に、わたくしはもしかしたらと・・・自分の夢のような錯覚を信じたくなっておりました。
「あんな風に知り合ったのですもの。軽蔑されても仕方ないと思っていたわ。」
彼の主である美貴さんとその二人の男性のお友達と一緒に、一夜を過ごすためのホテルまで・・・望月の運転するセルシオで送っていただいたのが、彼との初対面でした。
平気で複数の男性に身を任せる女だと・・・蔑まれても仕方ないと、ルームミラー越しの彼の視線に晒される度にいたたまれなかったほどでした。
「軽蔑なんてとんでもない。あの方達は、とても女性の好みにはうるさいのです。それも、単に色好みでおっしゃるのではなくて、人間としても魅力的な女性でなければ遊ぶことすらなさらないのです。どなたかが気に入られても、どなたかは気に入らなかったりはしょっちゅうでした。一度に、たとえ一時でもあの方達全員を夢中にさせたのは、祥子さんがはじめてでした。だから興味を抱いたのです、あなたに。」
ちゅ・・・ 髪をかきあげて秀でたわたくしの額にまたキスが重ねられたのです。
「尊敬するあの方達を出し抜けたら、なんていうつまらない男の虚栄心なんて祥子さんの前では何の役にも立ちませんでした。僕も、二人きりの時間にあなたの虜になってしまったのですから。」

わたくしに被いかぶさるように傾けられていた身体を、望月さんはまるで重力に逆らうかのようにしてソファーの背へ持たせかけたのです。
そして・・・ふぅぅぅっと、大きなため息をついておっしゃるのです。
「ああ、こんな風に二人でいたらおかしくなってしまいそうです。」
「ん?どうしてなの。」
「あの、まだ身体が辛くはないですか? あんなに、僕たちでしてしまったので。だから僕と二人だけで過ごせたなら、祥子さんのことを少しでも休ませてあげたいって思ってたんです。」
たしかに、身体はまだところどころ軋んでおりました。
縛られ・吊られ・茂みを刈り取られ・何度も数え切れないほどに絶頂を極めさせられた淫媚な疲労は、まだわたくしの中に留まっていたのです。
「あの方達は、いや僕も、普段はそんなことはないのに祥子さんを前にすると、際限なく求めてしまうんです。今回も、美貴からはいろいろな趣向を事前に聞かされてはいました。そのためにいろいろな準備もしましたから。でも、結局それ以上に・・・なってしまう。
だからせめて、僕と二人きりの時には祥子さんのことを紳士的にいたわるつもりだったんです。」
「つもり?」
「食事にはまだ早いかな。だったら、ドライブにでも行きませんか?このまま居たら、また自分のことを抑えられなくなりそうです。」
どちらの提案も魅力的でした。でも・・・
「ドライブはしてきたばかりだわ。お食事は、まだお腹はすいてないでしょう。」
わたくしは、彼の肩先に頭を持たせかけて囁いたのです。
「紳士的に、愛してくださっても・・・いいのよ。」

夢のかよひ路 11

肘をついて上体を起こした望月さんの顔はわたくしが思っていたよりも少しだけ離れていて、その距離の分だけほっといたしました。
「その頬も・・・」 ちゅ・・・ 挨拶のような軽いキスが、上気したわたくしの頬に触れました。
「その唇も・・・」 ちゅ・・・ 小鳥のついばみのようなキスが・・・
「その瞼も・・・」 ちゅ・・・ 優しく指先で触れるようなキス・・
「その鼻先も・・」 ちゅ・・・ 優しい兄のようなキス・・・
「塗ったり・飾ったりしない、僕の腕の中で目覚めた時に微笑んでくれる祥子さんと同じ顔。好きです。」
メイクアップということをわたくしは全くいたしませんでした。
口紅もマスカラもファンデーションもアイシャドウも・・・日頃から何一つつけはしませんでした。装うためにわたくし自身に許したコスメティックは、肌を整えるための最小限の基礎化粧品とほんの少しの香水だけでした。
「どんなに感じても・どんなに乱れても祥子さんが綺麗なのは・・・祥子さんが祥子さんのままだから、なんですね。いつでも、どんな時でも。」
ちゅ・・・もう一度今度は右の頬に小さなキスが届けられたのです。
「はじめて夜お迎えに上がったとき、大人な女性だと思ったんです。きりっと意志の強い黒い瞳、羞恥に愁を陰らせる濃い睫毛、白い肌、くっきりと赤い唇。」
望月さんは、わたくしの肩に手を掛けて起き上がらせてくれました。わたくしの瞳を見つめたまま。
「翌朝、迎えに行かせて頂いたとき、不思議だった。少し青白かったけど、ゆうべと同じきちんとしたメイクをしてるのに、どれほど近くに居ても化粧品の匂いが全くしなかったから。石けんの匂いのする綺麗に装った大人の女性は、はじめてでした。」
押し倒され、かき乱された黒髪を一筋一筋・・・望月さんの指が整えてくださるのです。
「次に、お逢いしてお世話をさせて頂いたとき、驚きました。この肌が・・」
望月さんの指が頬の上をつぅぅぅっと滑ってゆきます。
「何も塗られていない肌だって間近で見て、はじめて気付いたから。濡れた様に赤い唇も、マスカラで造られたのだとばかり思っていた長いまつげも・・・全部ナチュラルだったから。」
乱れたニットワンピースの裾を、望月さんの手が整えてくれました。
「それに気付いたとき、僕は祥子さんに恋したんです。」
「そう・・・だったの。」

はじめてでした。そんな風に言われたのは。
「お茶が冷めてしまいましたね。」
立ち上がろうとする望月さんの手を、このままで居て・・・と無言のまま掴み留めたのはわたくしでした。
浮かしかけた腰を、もう一度きちんとソファーに戻して望月さんはお話を続けてくださいました。
「最初は、はじめてお逢いした日に垣間みた綺麗な大人の女性のイメージと、美貴や山崎様や石塚様がその後もあまりにたびたび祥子さんのことを話題にされていたので好奇心を抱いただけでした。」
わたくしの右手は、優しく大きな望月さんの手で包みこまれてゆきました。
「あの美貴が、<祥子さん>という名前しか知らない女性のために自分が持っている関連会社に内密に通達を流し、次に逢うときの為だといって僕の実家まで足を運んで着物を誂えようとし・・・1本の電話で数億のビジネスを放り出してでも時間を作ろうとするなんて、考えられないことでした。」
あの、徹夜明けのプレゼンの夜・・・美貴さんがそんなビジネスを抱えてらっしゃるとは思っても居ませんでした。
「この着物も、もちろん僕がイメージした祥子さんにと用意したのですが、それも美貴への男としての対抗意識からだったに過ぎなかったんです、最初は。」

話し続けたせいでしょうか。望月さんは冷めたアールグレイに手を伸ばし、一口・・・唇を潤したのです。そしてもう一口含むと、わたくしに唇を重ね・・・口移しに香り高いお茶を流し込んでくださいました。

閑話休題(インターミッション) 11

こんばんわ、祥子です。
<夢のかよひ路>連載中に多くの方からコメントをいただいた『キス』についてアンケートを実施します。
但し、今回は男性限定です。
女性にキスをしたくなる瞬間を教えてください。

なお、アンケート実施期間は15日間。
10月28日が締め切りになります。
沢山の男性からのご意見をお待ちしております。
どうぞこぞってご参加くださいませ。

夢のかよひ路 10

「ちゃんと居るでしょう。ここに。」
「はい。でも、こんな風に抱きしめていたら、いつまで経ってもドキドキがおさまらなくて困ります。」
言葉とは逆に、望月さんの腕がきつく・・肩に巻き付くのです。まるで腕の中にいるわたくしが霞のように消えてしまうんじゃないかと心配するみたいに。
「居なくなったりしないわ。だから離しても平気よ。」
わたくしは、望月さんの厚い胸に両手を押し当てて身体を引き離そうといたしました。
それでも彼の腕は動かないのです。だから、次は身を捩るようにして・・・明るい午後の日差しが差し込むリビングルームで・・・不用意に近づきすぎた身体を引きはがそうとしたのです。
「あぁ僕に触れる祥子さんの身体、悩ましすぎます。」
シルクニットに包まれたGカップの乳房の外辺が望月さんの腕に触れた時、うめく様に呟いた彼に、そのままソファーへゆっくりと押し倒されてしまったのです。
「わたくしが側にいたら望月さんが辛いなら・・・」
「それ以上言わないでください。」
「ぁふっ・・・」
再び重ねられた唇と共に、わたくしに触れた望月さんの身体は明らかに昂っておりました。
お行儀のよい紳士の装いのままで、彼のスラックスとわたくしのニットワンピースを隔ててさえも・・・もうその熱が伝わってくるほどだったのです。

ちゅく・・・ 絡めた舌を離す時に、きらめいく透明な1本の粘糸が二人の間を一瞬だけ繋ぎます。
「あまい・・・」
くちゅぅ・・・ 何度も何度も・・・望月さんはわたくしの舌先を上顎を・・・上下の唇を・・・味わい続けるのです。花びらの奥に彼の塊で愛するのと同じ力強さの籠ったキスでした。
「・・ぁぁ・ん・・」
先ほど一旦中断され現実に引き戻されたキスで引き出された官能は、ふたたび蕩火に炙られる様にわたくしの身奥で大きくなってゆくのです。
キシっ・・・ 糸啼きの音がソファーに重なった二人の身体の密着を聴覚にまで思い知らせます。
太ももに触れる熱く猛った塊や、荒いニットの目が望月さんの胸板で擦りつけられる・・・乳房の先端や・・・探り当て指を絡められ押さえつけられた左手や・・乱されたまま揃えられなくなった脚や・・・たくし上がったワンピースの裾や・・・。
その前の夜から主とその友人とはいえ、他の男の手の中にいるわたくしを見守り続けることが・・・その後の24時間の禁欲が・・・どれほどの苦行だったのかを、望月さんはいま、わたくしに思い知らせようとしているかのようでした。
「ぁぁっ・・ぃ・・くっ・・」
身を起こそうとして、ソファーから落ちかけたわたくしの脚の間に立てられた望月さんの膝が、レースごしに茂みのない丘の中心に疼きを溜めて膨れ出した真珠に触れた途端・・・わたくしは・・・はしたなく達してしまったのです。

望月さんに覆われた唇の中に漏らした絶頂の喘ぎと、ピクンと反り返った背筋が・・・キスに夢中になっていた彼に、淫らな現実を教えてしまいました。
「キスで逝った?」
「ゃぁ・・・」
信じられないと言った表情の、彼の視線がわたくしをいたたまれなくしたのです。
「嬉しいです。キスでそんなに感じてもらえたなんて。」
わたくしはまだ達した衝撃に肩を喘がせ続けておりました。声を出せば艶めかしい響きを帯びた声しか出せなくなりそうで・・・羞恥に彼の視線から顔を背けてしまったのです。
「祥子さん、僕を見てください。」
甘く優しい声に、はじめて・・・わたくしの前で<僕>と・・・リラックスした物言いをした望月さんを改めて見上げたのです。

夢のかよひ路 9

「だめです。帰ったりしちゃ。」
「・・・あん」
腰を浮かせかけたわたくしを、大きな望月さんの長い腕が抱きしめます。
想像以上に・・・きつく。
「帰らないわ。」
「本当に?」
「ええ、祥子って呼んでくださったらね。」
「しょう・・こ」
そのまま、望月さんの唇がわたくしに・・・重ねられたのです。
数日ぶりの激しいディープキスでした。
男性なのに柔らかな唇と舌はわたくしの口唇をついばみ・ねぶり・絡め・吸い上げてゆくのです。
わたくしは声を上げることも忘れて、望月さんの腕の中に・・・はしたなくキスに蕩ける我が身を投げ出しておりました。
しなやかな望月さんの指が、口づけを交わしながら乱暴にわたくしの眼鏡を取り上げます。
アールグレーの香りの唾液はわたくしの唇から望月さんの口内へと絡めとられ・・・より濃く・甘くなってわたくしの喉へと落とされてゆくのです。唇は熱すぎる呼気を上げてもほんの少ししか離れることを許されずに、喘ぎはそのまま吐息となって望月さんの体内へと流れ込んで行ったのです。
望月さんの指が、わたくしの髪に差し入れられます。大きな手が・・指が・・わたくしの首筋のリボンを解き・・・柔らかなストレートロングの髪を絡めとり、優しくこの数日緊張に強ばっていた頭皮を・・・首筋をもみほぐすように愛撫するのです。
繊細に指を動かしながら、動物的にわたくしを貪るキスは・・・止まりません。官能的なまでに身も心もほぐされてゆく喜びに、わたくしの身体は震えはじめておりました。

「あん・・ゆるして・・・」
ほんの僅かに離れた彼の唇との狭間で、わたくしはため息のようにたった一言漏らしたのです。
ディープキスは、もう数十分にも及んでおりました。真摯で溺れているような口づけは、わたくしをあと数分で最初の絶頂へと導きかねないほどの力を持っていたのです。
「帰る・・・なんてもう言いませんか?」
こくん・・・とわたくしは望月さんと眼を合わせることすらできないままで、首を縦に振ったのです。声を出したら、ただの答えさえはしたない喘ぎになってしまいそうだったからです。
「本当に?」
「ええ」
わたくしはそのまま、彼の胸元へと顔を埋めていったのです。

「よかった。祥子さんに嫌われたかと思った。」
抱きしめたわたくしの頭に顎を載せるようにして、望月さんが、他の方達がいらっしゃるときとは違う、ふたりきりの時だけに聞かせてくれる柔らかな声で語りかけてくれたのです。
「嫌ったりしないわ。」
子供の様に彼の胸にぐりぐりと頬を擦り付けて・・・わたくしは答えました。
わたくしの方こそ別荘での最後の一日を、もしかしたら望月さんに嫌われたのか・・・と半ば案じていたのですから。
「夕食までは、我慢しようと思っていたんです。優しい誠実な恋人のように祥子さんをエスコートしたかったんです。」
「嬉しいわ。」
「でも、祥子さんが帰るなんていうから我慢できなくなって。まだ、あなたがここに居てくれるかどうかって、ドキドキしてる。」
「ん・・・」
言葉通り、わたくしの右耳が当たっている望月さんの胸は、トットッと・・・早い鼓動を刻んでいたのです。命の証の音・・・を。
赤子のようにわたくしは彼の鼓動に安心し、大きな胸に素直に抱き取られていったのです。

夢のかよひ路 8

「すてきだわ。こんな大島・・なかなか手に入らないもの。」
紅葉柄を織り出している無数に広がる小さな絣の交点は、この着物が最高級品の大島である証でした。
それも、白大島。淡く墨絵のように浮び上がる柄は、上品で奥行きを感じさせる大胆な構図を備えていたのです。
「気に入ってもらえて良かったです。これは秋の柄ですから、別荘にお持ちするわけにも行かなくて。お召しいただくのは随分先になってしまいますが、あのとき出来なかったプレゼントです。お持ちになってください。」
「ありがとうございます。うれしいわ。」
あの・・・望月さんの名前をはじめて知った夜。
美貴さんに苛まれて全てを犯されたわたくしを、真っ白な花嫁のような襦袢に包んで望月さんは優しく清めてゆくように愛してくださったのです。
足元の長襦袢の眩しい白は、その時の淫らな感覚まで呼び覚ましそうでした。
こうして見せられた着物を、いままででしたら望月さんはわたくしに必ず着せ付けたのです。
今夜もそうなさりたいのでしょうか・・・。

「紅茶ですが、暖かいうちに召し上がりませんか。」
着物に幻惑された物思いを知らぬ気に、望月さんは声を掛けて立ったままのわたくしを改めてソファーに座らせてくださいました。
ティーセットはウエッジウッドのセレスティアルプラチナのシリーズでした。
背後に掛けられている白大島のような、磁器の白肌に銀に輝く唐草模様が美しい・・・ウエッジウッドの比較的新しいシリーズでした。
「よかったら、香り付けにブランデーを使ってください。」
ポットから、香り高いアールグレーを注ぐとわたくしの目の前にカップを置きました。それに、ブランデーの入った小さなガラスの器も。
「ありがとう。でも、わたくしの好きな紅茶だからこのまま頂戴するわ。」
アールグレーをストレートで。
いつの間にか望月さんはわたくしの紅茶の好みも憶えていてくださったのでしょう。彼がキッチンお持ちになったトレイにはあと1つ、シュガーポットだけが残っていました。
窓辺には大型のテレビとひっそりとオーディオセット。
そして、お正月用に用意されたのでしょう。松竹梅の鉢が飾ってありました。
さほど大きくはない梅の木でしたが、窓越しの暖かな陽の光に花開いた枝から清々しい香りを室内に満たしておりました。
「ここは、あなたが1人で住んでいるの?」
インテリアのしつらえは、男性のものらしいシンプルなものでした。
が、紅茶のためだけの器や正月飾りがわりの植木鉢などは・・・たとえ望月さんでもそう気がまわることではないでしょう。
「実は、上のフロアに父が上京する時用の部屋があるんです。年末には、母がその部屋と私の部屋を大掃除に来てくれるんです。」
「そうだったんですか。」
「男の独り住まいに、鉢植えなんて変ですよね。」
「いいえ、素敵だなと見ていたのだけれど、望月さんだってお忙しいのによく気がつかれるなと思っただけよ。」
「ははは、嫌いじゃないですがなかなかそこまではできません。」
照れた様に、望月さんは笑います。京都から出ていらっしゃるお母様の思いやりもそのまま受け止める息子としての思いやりまで、その表情からは感じることができました。
「あの、寒くはないですか?ここは基本的に建物全体でエアーコンディショニングをしているのですが、帰ったばかりで少し冷えていたので床暖房を入れたんです。祥子様に風邪をひかせたら、怒られてしまいます。」
「ほら、また。だめよ。」
「あっ・・・つい。」
「今度<様>を付けて呼んだりしたら、帰っちゃうから。」
本気ではありませんでした。この部屋は、望月さんの隣で寛ぐソファーの包み込むような柔らかさは、とても居心地が良かったのですから。

夢のかよひ路 7

エレベーターは8階で停まりました。
「こちらです。」
エレベーターを出て右側へ、最初のドアに<806/Y.MOCHIZUKI>のプレートが見えました。望月さんは黙って鍵を開けると、入り口すぐの照明のスイッチをいくつかONにしたのです。
「上がって、少し待っていてください。」
一足先に玄関に上がると、ムートンのスリッパを・・・雪の別荘で出してくださったのと同じものを・・・揃えてくださいました。
わたくしの手からヌートリアのコートを受け取ると玄関のクローゼットに掛けて、ご自分はスタスタと室内に入ってゆかれたのです。

ジィィィ・・・・っ わたくしは、ロングブーツのファスナーを下ろしました。続いて左脚も。そうしながら、望月さんがこの場から外してくださった訳がわかったのです。
身支度をする姿を見られるのが苦手なわたくしのブーツを脱ぐ姿を、無作法に見つづけていなくてもいいように・・・気をつかってくださったのです。
踵に手を添えてブーツを脱ぎ、玄関の脇に揃えて置かせていただきました。
ムートンのスリッパに足を入れた時、彼の足音が聞こえたのです。
「お待たせしました。」
望月さんは、スーツからカジュアルなネイビーのコットンパンツに同じ色のセーターを白いシャツの上に重ねた姿でいらっしゃいました。
「似合うわ。素敵よ。」
「ははは、ありがとうございます。」
いつも、年上の男性達の間できちんとした仕立てのいいスーツを着ている望月さんの姿しか知りませんでした。雪の別荘でも・・・。
カジュアルな着こなしの彼はとても新鮮に映りました。
「こちらにどうぞ。」
望月さんが先に立って歩くと正面の扉を開けました。

扉の先はキッチンとリビングダイニングのようでした。
滞在している間のお食事の支度も彼の役目になっていました。
望月さんは別荘でもわたくしたちに美味しい珈琲を何度も煎れてくださいました。別荘ではお夕食はホテルから届けられていたものの、朝食のオムレツを美味しく焼き上げてくださったのも望月さんだったのです。
お1人で住まわれるには広々としたキッチンや、垣間みることのできた整えられた調理用品は彼の日頃の生活を彷彿とさせました。
「お疲れですよね。いま熱いお茶を煎れますから、ソファに座って待っていてください。」
「ありがとう。失礼します。」
望月さんは、キッチンで湯気を立てはじめたケトルへと向かいました。

「わぁ・・・きれい・・・。」
そのまま左手に広がるリビングに入って、わたくしは思わず声を上げてしまいました。
緩やかにRを描く窓に向かって置かれたソファーの背中には、衣桁に紅葉柄を繊細に織り出した白大島が掛けられていたのです。
足元の乱れ箱には、黒繻子に銀糸で刺繍された流水が美しい名古屋帯と葡萄色の帯揚げ・帯締め。そして・・・箱根の宿でわたくしに着せてくださったのと同じような、純白の綾絹の長襦袢が置いてありました。
「気に入ってくださいましたか?」
振り返ったわたくしの視線の先には、アールグレーの香りのポットとカップをトレイに乗せた望月さんが立っていらしたのです。
ソファーの前のローテーブルに茶器を置くと、見事な着物の前に立ち尽くすわたくしの隣にいらしたのです。
「これは?」
「あの、箱根の宿で私が選んでプレゼントしようとしていた着物です。あの日長襦袢を私が頂いてしまったので、差し上げられなくて。今日、こちらに立ち寄っていただけたらと思って用意しておいたのです。」

夢のかよひ路 6

走り出した車がどこへ行くのかもお聞きしませんでした。
望月さんにこの一日をお任せしたのです。
関越自動車道の上り線からは外れませんでしたから、翌日の仕事を思えば都内へ向かうのでしょう。
わたくしは先ほどのリアシートとは少し座り心地の違う助手席に、肌触りのいいストールを巻いて腰を下ろしておりました。
「いいですよ、まだ怠いでしょう。着いたら起こしますから、眠かったら寝ていてください。」
「ううん、大丈夫よ。でももし眠ってしまったら、ごめんなさい。」
スムースなドライブにふぅっと眠りに落ちかけるわたくしに、望月さんは気を使ってくださいます。
わたくしが助手席にいるからといって、望月さんはことさらに口数が多くなるということはありませんでした。
低くかかっている軽快なクラシックに耳を傾け、時折目にする光景に・・・まだあまり多くはない都内の渋滞情報や事故の情報に・・・いくつか言葉を交わしただけでした。
それでも、気詰まりだったり退屈だったりはしないのです。
黙っていても心地良い時間が二人の間には流れていました。

セルシオは関越自動車道を練馬インターで下りました。そのまま谷原の交差点を環状七号線へと車を向かわせます。
3が日の都内は、まだ車も少なく流れはスムースでした。
時に渋滞している場所にさしかかると、わたくしには解らない裏道を駆使してパスしてゆくのです。
いまさら・・・なのですが、セルシオにはカーナビゲーションシステムは付いておりませんでした。
いつも、まるで何の迷いも無く車を走らせてゆく望月さんに、ポピュラーになったあの機器は付いているものだとばかり思っていました。よく考えれば、あの独特の合成音声をこの車で一度として聞いたことはありませんでした。
望月さんは、たしか京都の出身だと聞いていましたが・・・都内だけでなく、美貴さんと行き来する場所のルートを熟知しているのでしょう。

いつの間にか、クラシックのCDはJ Waveに切り替わっていました。渋滞情報を真面目な表情で聞きながら、いつも通り的確なドライビングを繰り返します。
わたくしはいつの間にか会話をすることもなく、望月さんの横顔を見つめていました。
リアシートにしか座ることの無いわたくしにとって、運転をする彼を見る機会は一度もありませんでした。
わたくしを見つめるときには、優しく微笑むか・微かに愁を帯びる彼の眼差しが真剣な光を帯びている様はとても魅力的だったのです。
車は城南エリアに向かって進んで行きました。環状七号線から山手通りへ大崎ニューシティを折れて・・・セルシオは日本庭園を望む高層ビルの地下駐車場へと滑り込んだのです。

「ここはどこ?」
同じエリアの少し離れた場所にある贅沢な空間のホテルのことはわたくしも存じておりました。でも、このビルはホテルではありませんでした。たしか・・・住居棟だったはずです。
「私の部屋です。狭いので申し訳ないのですが、寛いでいただけますから。」
どうぞ・・・と、望月さんは助手席のドアを開けてくれたのです。
ご自分はトランクからバッグを1つだけ持って、わたくしを伴ってエレベーターへと向かったのです。

まさか、ご自分のお住まいに招いてくださるとは思ってもいませんでした。
とはいえ、ホテルから別荘へと・・・素敵だけれどどこかよそよそしい空間で時間を過ごしていたわたくしには、ほっとくつろげる場所へ連れてきて下さったことはとても嬉しかったのです。

夢のかよひ路 5

化粧室で用を足し、車の中で寝乱れていた髪をサテンのリボンで首筋あたりに簡単にまとめてから出てまいりました。
目の前には、てっきり暖かな建物の中か車で待っていて下さると思っていた望月さんが、どなたかの飼い犬なのでしょう・・・ゴールデンレトリバーと戯れていたのです。
「お待たせしてごめんなさい。」
「あっ、祥子様。いえ、私の方こそこんなところで・・・。」
飼い主の方が戻ってこられたのでしょう。
ぶんぶんと尻尾を振っているレトリバーに、またな、と望月さんは明るく声を掛けて手を振っていました。
「かわいいわね。」
「はい。子供の頃から動物を飼うのを許してもらえなかったのでつい留守番をしている犬を見ると構いたくなってしまうんです。」
「わかるわ、その気持ち。」
「子供みたいですよね。」
はははは・・・無邪気に望月さんが笑います。
あのそれぞれに一流の男性達に囲まれていながら、それでも望月さんが卑屈になったり萎縮しているところをわたくしは見たことがありませんでした。
ただ、こうして明るい光の下で二人きりでいると、少しだけかもしれませんが無理に背伸びしていたのかがわかりました。
「ずっと運転していたのでしょう。疲れてない?」
「はい。いつものことですから、大丈夫です。」
朗らかな表情はそのままに、答えてくれます。わたくしは、ほっといたしました。

コートを着ているわたくしと違って、望月さんはジャケット姿のままです。そろそろ寒くなってきたころでしょう。
「あの、祥子様。」
車へと戻りかけたわたくしの背中へ、望月さんは声を掛けたのです。
「なぁに。」
振り返って見上げた彼の顔には、いつものしっかりしていて、頼もしくて堂々としてみせている彼にはない34歳という年齢のままの素直なはにかみが浮かんでおりました。
「祥子様は、明日はもうお仕事ですか?」
「いいえ、あと一日お休みなの。わたくしのお仕事は5日からだから。」
「あの・・・それでしたら」
思い切る様に、望月さんはわたくしをまっすぐに見つめました。
「今日一日を私だけに下さいませんか?」
答えもせず、わたくしはじっと彼を見つめ返したのです。
「お疲れでしょうから、無理はさせませんし、いたしません。どうか、二人・・」
わたくしは優しい望月さんの唇にもういいのよ・・・という気持ちを込めて左手の人差し指をそっと押し当てたのです。
「わたくしのお願いも聞いてくださる?」
コクコクと望月さんは首を縦に振るのです。
「二人きりの時は<様>なんてつけないこと。車の助手席に乗せて下さること。優しいキスをしてくれること。その3つを聞いてくださるなら、明日の朝送ってくださるまでご一緒するわ。」
「ありがとうございます。祥子さ・っ・」
ちゅっ・・・ わたくしは少し背伸びをして、いつもの様にわたくしを呼ぼうとする望月さんの唇を奪ったのです。
「だめ、祥子って呼んでくださらなくちゃ。」
「呼び捨てなんて出来ないです。祥子さん、でもいいですか。」
「ふふふ、しかたがないわね。」
「よかった。それじゃ、車に戻りましょう。」
望月さんが差し出してくださる逞しい腕に手を絡めて、ふたりはセルシオへと戻ったのです。

夢のかよひ路 4

リアシートの中央は肘掛けの形に下ろされて、そこにはミネラルウォーターのペットボトルとエルメスのカシミアストールが用意されておりました。
深みのあるオペラピンクのストールを取り上げると、わたくしはすっぽりとワンピースの肩を覆ったのです。
窓越しの日差しは、かすかに流れてくる凍てつく空気とは反対に明るくあたたかでした。
そして肩を包む柔らかくて・暖かくて・軽い1枚の布は、車の振動と相まっていつのまにかわたくしを微睡みへと誘ったのです。

「祥子様・・祥子様」
わたくしは望月さんの声で、リアシートの肘掛けに凭れてぐっすりと眠りこんでしまっていたことにはじめて気付きました。
「ぁっ、ごめんなさい。眠ってしまってたのね。」
「申し訳ありません。よく眠ってらしたのに起こしてしまって。」
「いいえ。ここはどこ?」
「高坂SAになります。少し休憩なさいませんか。」
言われてみれば、随分な時間眠っていたようです。
朝食の後で彼が煎れてくれた珈琲が、わたくしを恥ずかしい生理的な欲求へと駆り立てていたのです。
「ありがとう。お言葉に甘えて、ちょっと化粧室に行ってまいります。」
「はい。」
すでにシートベルトは外していらしたのでしょう。すっと運転席から立たれると、回り込んでわたくしの席のドアを開けてくださいます。
「わたくしは、美貴さんじゃないのだからいいのに。」
外は、軽井沢とはまた違った強く冷たい風が吹いていました。ヌートリアのコートを着て車外に降り立ちながら、その風に紛れてしまわないようにわたくしは傍らに立つ望月さんの耳元にそっと囁いたのです。
「いえ、叱られますから。」
眼を見ることも無く、望月さんは独り言の様に呟くとわたくしが降りたあとのドアを閉めたのです。

わたくしの背後で車のドアがロックされる音が聞こえました。
途中、車が停められていれば気がついたことでしょう。わたくしが眠りこんだままだったということは、望月さんはずっと運転をしつづけていらしたのでしょう。
雪道の・凍る・峠道を。
頼もしく飼い主を守るゴールデンレトリバーのような彼の佇まい。
今日はリアシートから見つめるしかなかった彼の肩が、昨晩からわたくしを抱き続けていたせいだけでなく、気の張る運転でも堅く強ばってしまったのではないかと心配でした。

美貴さん・山崎さん・石塚さん・・・望月さん。
その4人の男性に、目覚めてから眠りに落ちるまでの20時間あまりを交互に責め・嬲られた後、わたくしは鏡張りのキングサイズのベッドの部屋で世話係だと言われて部屋に残された望月さんと二人きりでやすませてもらったのです。
わたくしの身体は、長時間の度重なる責めで想像以上に消耗しつくしておりました。
そのことをご存知だったせいもあるのでしょう。
望月さんはわたくしの身体を彼の腕の中にすっぽりと包んで、ベッドに横たわっても抱きしめる以上のことはなさらなかったのです。
恥ずかしがるわたくしの言葉通り入浴をご一緒することも遠慮してくれました。それでも、湯上がりの香りを漂わせる身体に寄り添い濡れたわたくしの髪を結い上げ、銘仙の着物を着せ付けてくださったりはするのです。
二人きりの部屋でそれほどに近くに居ても、彼はとうとうキスすらもせずにこの帰路へ付いたのです。

あの2泊3日は(実際は3泊4日になってしまいましたが)わたくしがいままでに体験したことがないほどに、官能的な時間でした。
だから・・・もしかしたら、望月さんはわたくしに飽いてしまっていたのかもしれません。
まるで20代の男の子の様にわたくしの身体を求めてくださる望月さんが、小鳥のようなキスすらなさらないのですから。

夢のかよひ路 3

「そろそろまいりましょうか。」
朝食のテーブルを片付け終えた望月さんが、暖炉の前のソファーで三人の方達とお話しをしていたわたくしの背後から声をかけてくださいました。
「多分軽井沢までは凍っていると思う。気を付けていってくれ。」
「はい」
別荘の主の石塚さんは幾度か冬にいらした経験からでしょう、そんなふうに望月さんにアドバイスをしていました。
「暖かくしていってくださいね。日差しはあるけれどこんな日は冷えますから。」
「ありがとうございます。」
玄関に用意されていたのは柔らかな革がふくらはぎをぴったりと覆う黒のロングブーツでした。ファスナーを引き上げたわたくしの肩に、山崎さんがヌートリアのショートコートを掛けてくださいます。
ドアを開けた玄関先のうっすらと雪に覆われた石畳を、滑らない様にと望月さんは手をかしてくださいました。
みなさんそろって・・・わたくしに対してはとても過保護なのです。大丈夫ですからと言っても、手を貸すことを止めはしないでしょう。
「よろしく頼む。」
「はい、畏まりました。」
美貴さんの声に頼もしく答えると同時にわたくしの手をほんの少しですが力を入れて握りしめたのです。
安心してください、大丈夫ですから・・・とでも言う様に。

まだ結城さんの運転するレンジローバーは別荘には来ておりませんでした。
この別荘に最初に着いた時に車を止めてくださったテラス側ではなくて、玄関の正面に黒のセルシオは暖気を済ませて停まっていたのです。
「寒いから、お部屋にいらしてくださいな。」
コートも羽織らずにシャツとセーターといったリビングでお話をしていたままの出で立ちで、3人の男性はお見送りにいらしていたのです。
「やぁ、大丈夫だよ。今朝は日差しがあたたかいからね。」
ご自身の微笑みが明るい太陽のような石塚さんは、一足先にセルシオにたどりつくと、わたくしの為にリアドアを開けてくださいました。
「ありがとうございます。」
革のリアシートに腰を下ろしたわたくしを確かめてから、望月さんは運転席に向かいます。
せっかく暖かくしてくださっている車内でしたが、お部屋に戻らない三人の方達のためにわたくしはパワーウインドウを下げたのです。
「また、東京でお逢いしましょう。」
「楽しみにしてますよ、いつでもあの店にいらしてください。」
「今度は僕がお誘いしますからね。」
口々に3人がおっしゃるしばしの別れの言葉と握手に、思いがけなくこの方達と過ごすことの出来た年末・年始の数日間のことを、あらためて嬉しく思い出していたのです。
「まいります。」
運転席から望月さんの声がいたしました。ルームミラーでわたくしにそろそろ・・・という視線を送ってらっしゃいます。
「それでは、失礼します。」
キッ・・ サイドブレーキを戻すと同時に柔らかく踏み込まれたアクセルを合図に、わたくしは開いた窓からひらひらと手を振って、雪の別荘と3人の男性にお別れをしたのでした。

「ごめんなさい、せっかく車の中を暖めておいてくださったのに。寒くなっちゃったわね。」
パワーウインドウを上げて、わたくしは羽織っていたコートを脱ぎました。
車内の空気は寒いというほどではなかったのですが、ニット越しに触れる肌には少し冷たかったのです。
石塚さんがおっしゃったように道は凍結しておりました。セルシオの車重がかかるたびパシっ・・・と軽く氷が割れる音がいたします。
「お気になさらないでください。コートが暑い様でしたらそちらにご用意したストールをお使いください。」
望月さんは慎重に・確実に運転をこなしながら、鏡の中のわたくしに答えてくれました。
「ありがとう。遠慮なく使わせていただきます。運転は大変でしょう。わたくしは大丈夫ですから気を遣わないでくださいな。」
「恐れ入ります。」
わたくしから見える望月さんの肩がふっと和やかにリラックスしたことがわかったのです。
望月さんは低く掛かっていたフルートを中心としたクラシックのインスツル・メンタルのボリュームをほんの少しだけ上げて、運転に集中しはじめたようでした。